第1章 虹村家の娘 1
セーラー服ではなく、長ラン。
いわゆる男装だ。
細身のズボンと長ランが私の制服。
明日にはもう学校へ行くのだから、早く出しておきたい。
「兄貴ィーッ、来たっすよォー」
億泰が暗い廊下に向かって叫ぶ。
この家、電気通ってないのか?父親は何してるの?
「連れてこい」
廊下のむこうから返事が返ってきた。
億泰に続いて、歩いていく。
その部屋はリビングだった。
テーブルの椅子に腰掛けている金髪の男は、虹村形兆だろう。
鋭い目つきで私を一瞥すると、すぐ視線を外し、向かいの席を薦めた。
億泰が少し驚いたように形兆を見ていたのが気になるが、促されるまま腰を下ろした。
「…お世話になります」
軽く頭を下げる。
「気にするな」
「ありがとうございます」
そのあと、まともな会話をしてから急に変なことを尋ねられた。
「手を見せてくれないか」
手?
不思議に思いながらも左手を彼の前に差し出した。
途端、形兆は私の左手をテーブルに押さえつけ立ち上がったかと思うと、背後から矢を取り出すではないか。
「兄貴!?」
そばで退屈そうにしていた億泰も驚きの声を上げた。
振り上げられた矢が、私の手に振り下ろされた。
が。矢が私の手を貫くことはなかった。
すんでの所で形兆の手をつかみ、押さえているのは、私に宿るあのおかしな物だった。
そう、こいつはいつも私を助けてくれる。
他の人には見えないけれど。
しかし、こいつは形兆にも億泰にも見えていた。
ふたりの目がしっかりコイツをとらえていたのだ。
それから、おかしな物、もといスタンドや弓と矢の話を聞かせて貰った。
彼らの父親の話も。
私のスタンド能力はコピー。彼らの力にはなれそうにない。
だが、スタンドとしてはかなり優秀な事がわかった。
私は形兆や億泰のスタンドもコピーし、自分の物にすることが出来たのだ。
スタンドは一人一体という、根本的なルールをあっという間に覆してしまったのだ。
その他にも身の上話をし、たった数時間でかなり打ち解けた。
こうして私はスタンドのこともあり、虹村家の一員としてこの町に住み始めたのだ。