第9章 9
「……夏の向日葵の、愛慕」
「………」
いつの間にこんなにも目線が変わっていたのだろうか
いつの間にこんなにも大人な表情をするようになっていたのだろうか
「……忘れられない人が、いるんですか?」
目の前に立つリアムは優しく微笑んでいるのに、悲しんでいるようにしか見えない
向日葵の花言葉は愛慕
そのことは知っていた
「私にとって向日葵は、一生忘れられないもの」
いつだって忘れたことなどない
いつだって君を想っている
「……そう、なんですね」
目の前にノアがいるのに、どこか遠くにいるような錯覚を覚える
目が合っているのに、自分の姿は写らない
それどころか、全ての景色を遮断しようとしているようにも見える
朝日が先ほどよりも高く昇り、兵士が次々と起床しはじめた
「じゃあ、私は部屋に戻るよ」
本当の意味で目を合わせることなく、ノアはリアムに背を向け、兵舎の中へと入っていった
「…残酷な人だ」
触れることはできるのに、本心には触れさせてくれない
誰と話すときでも、どこか一線を引いているように感じる
その心は誰になら許すのだろうか
誰になら、見せることになるのだろうか
もう誰もいない、兵舎へと続く道をじっと見つめていた