第7章 過去
Side of 如月
私は分析室に来ていた。
「んー?あら、悠ちゃん。どうしたの?」
分析官の唐之杜さんが微笑みながら言う。
彼女の笑みは、女の私でもドキリ、としてしまう時があるほど妖艶で美しい。
別のテーブルにカップラーメンが置いてある。
彼女の昼食だろうか。
昼食にしては少し遅い時刻だ。
分析官は昼食時間が無いほど今現在、仕事が多いのだろうか……。
だとしたら、私は仕事の邪魔になってしまう……。
どうしたものかと考えあぐねていると……
「なぁに?何か相談事?……恋愛関係なら大歓迎よ♪」
楽しげに微笑む彼女は回転椅子をぐるりと180°回転させ私に向き直る。
『あ、いえ。恋愛関係では無いです……。』
「あら、残念。…じゃあ、何かしら?」
さして残念がっている様には見えない彼女は優しく私に問う。
……きっと、彼女なりの優しさだろう。
私はふっと安心して息を吐き、訊ねた。
『あの…数年前に起きた、執行官が死亡した事件の事でお話が……。』
「…あー。佐々山くんの……標本事件ね。」
『…標…本……?』
「そう。私達、事件関係者の中では通称でそう呼ばれているのよ。」
唐之杜さんは、キーボードで何かを打ち、資料を出しながら続ける。
「悠ちゃん、プラスティネーションって知ってる?」
唐突に投げかけられた質問に、私は意図がわからずに戸惑い、答える。
『えっと……生体標本の作成方法ですよね…?樹脂に遺体を浸して標本にするって言う…。』
「そう。死体に樹脂に浸透させて、保存可能な標本にする技術。…遺体のその瞬間の状態を保つっていうのが本来の目的。……だけど、これを見て。」