第14章 兄と弟。・:+°信長、家康。・:+°
「天邪鬼め・・・」
「え?何か言いましたか?」
信長は襖の向こうを見据え、ぽつりと何か呟いたのを夕霧は聞き取れず首を傾げる。
「廊下に猫がいたようだ。」
「え?迷い込んだんですかね?逃がしてあげないと。」
「帰り道くらい分かる。さっき自分の寝床に戻ったようだ。」
「そうですか・・・」
的を射ない答えに疑問を持ちつつ夕霧は返事をした。
数日後・・・
「決定は覆らん。」
「納得できません。」
「貴様が何を言おうと俺は決めた事を変える気は無い。」
「・・・もういいです。今日にでも発ちます。」
「無事に戻ってこい。」
「もちろんです。」
家康が襖を閉めるのを見届け、信長様の方を向く。
何だか・・・以前より兄弟度が増している気がする・・・
「家康と何かあったのですか?」
「は?」
「いえ・・・今までの家康なら異論を唱えるだけ無駄って言ってた気が・・・」
「気のせいだ。」
何だか信長様にこれ以上聞くなと言われているようで、夕霧は口をつぐんだ。
「この間の採寸、終わらせてしまって構いませんか?」
「ああ。」
着丈を測るため信長の後ろに立つ。
「何だ。今日は聞き出そうとはしないのだな。」
フッと笑うと信長様が後ろを振り向く。
「見てるだけで十分に分かりますから今日は聞きません。そんな事より前向いててください。測れません。」
「そうか。」
また信長は前を向き直した。
二人の幼少の頃の話を聞いたあの日からだから。
二人が更に近づいた気がするのは。
さっきも二人の顔は何だか楽しそうだった。
これ以上二人の心の中を聞き出さなくても十分に分かる。
これからも仲良し兄弟でいて欲しいなぁ。
そう願わずにはいられない夕霧だった。
終