第4章 葉は緑、空は雨色
お昼休みにいつものように屋上のドアを開ける。
いつもの私の場所に、今日は先客がいた。
その先客に近づいて声をかける。
「めずらしいね。」
返事はなく、振り返りもしない。空を見上げている。
「土方先生が心配してたよ。」
「夢主(姉)ちゃんに心配されるなんて、世も末だね。」
「…そうかもね。」
そんなやりとりをしながら、先客な総司の隣に並んだ。
「夢主(姉)ちゃんこそどうしたの?最近真面目じゃない?」
「もう職員室に呼び出されるのは嫌。」
ふ~ん、と興味のなさそうな返事が帰って来る。
総司が授業をさぼるなんてめずらしい。
まぁ…成績が全教科学年トップな総司なら、さぼったところで怒られることはないのだけれど。
二人並んで空を見上げていれば、さっきまで降っていた雨の匂いがふっと風にのって通り抜ける。
一君が来なくなったお昼休みの屋上は、遠慮して来ていなかった総司が再び来るようになった。
あれから一ヶ月くらいかな。
校庭の桜の木には、緑色の葉が生い茂ってる。
勢いでやっと送ったLINEに、返事はないまま迎えた月曜日のお昼休み。
カタン、と屋上のドアが開く。
ゆっくり振り返ると、そこには大好きな一君の姿。
その時が来たんだって、瞬時にわかった。
ううん…LINEが返ってこなかった時点でわかってた。
一君、意外と気がつくの早かったなぁ…なんて、そんなこと考える余裕もあったり。
「…夢主(姉)」
私を呼ぶ大好きな低い声。
わかるよ。今、あなたは迷ってる。
泣いて嫌だとすがろうか…それとも…
妙に冷静すぎる自分が怖い。
変化がわかりづらい一君の表情が暗い。
きっとこれがわかるのは私だけ……と、今は思いたい。
私は思いきり笑顔で、明るく話かける。
「一君おはよう。」
ああ…私はこんな時、なんて自分は意地悪なんだと思う。
案の定、思いきり笑顔な私を前にして、これから私に言わねばならない事を言いづらい空気が流れてる。