第3章 【番外編】雪の日の待ち伏せ
一駅分の道程を、電車に乗らずに歩いた。
雪が降る道を二人並んで。
傘を差している分だけ、その距離は遠い。
冬休みに、合格祈願と称して二人で神社へ行った日があった。
その時初めて手を繋いで、触れた指先から電気が走ったように体が熱くなり、心臓が壊れそうだ、などと思った。
俺よりはるかに細くて小さい手を、折れてしまわないように握ったのを思い出す。
今日は…傘があるから手は繋げない。
そもそも…恋人ではないのだから。
「雪、積もるかな。」
歩きながら空を見上げてぽつりと言うあんたに、どうかな、と静かに答える。
「積もったら一緒に雪だるま作ろ?」
俺の顔を覗きこんでそう言われれば、その大きな瞳に思わず吸い込まれそうになった。
いつの間にか距離が近い。
「ねえねえ…手、繋いでもいい?濡れちゃうけど。」
俺の冷たい手に暖かくて小さなぬくもりが重なる。
好き…だとか…付き合おうだとか…
いわゆる、恋人同士となる為の言葉をまだ交わしていない。
あんたは俺をどう思っているのか…好意を持ってくれている自信はあるが、それ以上の自信などない。
繋いだ手に少しだけ力を加えれば、俺を見上げてにこりと笑う。
俺の顔は赤いだろう。
心臓の音は早い。
会話をする余裕もない。
だが…あんたは、にこにこと、赤くなることもなく楽しそうに話をしている。
それに負けないように、俺は全力で平静を保った。
繋いだ手の指先から、緊張や期待が伝わらないように。
傘から飛び出して繋いでいる俺の手に、雪が落ちては体温で溶けていく。
同じ制服を着ることが決まったら…
この気持ちを伝えよう…
さらに強く…折れないように…痛くないように…小さくて細くて暖かい手に力をこめた。
桜の木にまだ蕾が付き始める少し前…
あんたの隣は俺の物になった。
でも
苦しかった
ずっと
眩しすぎて・・・