第3章 【番外編】雪の日の待ち伏せ
空を見上げれば、少し大きめな雪が、はらりはらりとゆっくり落ちて来る。
学校の門を出て、自宅とは反対方向の駅へ。
受験までの日数は、もうそう遠くはない。
下校中の寄り道など、以前の自分なら考えられないことだが、帰宅時間が少し遅くなったところで受験に影響することなどない。
駅に着く頃には、傘には雪のかたまりが付く。
それを、はらって傘を閉じた。
さっきよりも雪は少し強くなったな…このまま降り続けて積もるのか…と、
駅前の樹木に少しずつ雪が乗っているのを見て、未だに積雪を期待して心躍らせている自分に気がつく。
「一君?」
雪に気を取られて樹木を見つめていた俺の背後から、聞きたかった声が聞こえて、はっと我に返った。
声の方に振り返ると、真っ白なマフラーを口元までふわりと巻いて、寒さのせいかいつもより頬が赤い夢主(姉)の姿。
「寒いね~。一君に会えると思ってなかったからうれしいな。」
満面の笑みで俺を見つめてくる。
空の色は雪が降る薄い灰色で…決して明るくはないはずなのに、俺にはあんたが眩しくて仕方なかった。
どうしたのこんなところで、というあんたの質問に、俺は本屋へ来たと答える。
本当は違う。
本屋へではない。
俺は夢主(姉)…あんたに会いに来た。
約束をすれば良いのだろうが、何も用事がないのにどう約束をすればよいものかわからなかった。
「そうなんだ!もう用事はおしまい?」
用事もなにも…あんたに会うことを目的としてここに来た俺にとって、今が用事中…といったところだが…もう帰るところだと答える。
「もう帰っちゃうのかぁ…そうだよね…」
と、少しさびしそうな声がする。
期待通りの反応に、緩みそうになる口元を抑えて、家まで送ることを提案した。
それをきらきらした笑顔で喜んでくれて、俺はさすがに抑えきれなくなった口元を気がつかれないように緩ませた。