第2章 サクラ散る頃
部活を終えれば、あたりはすっかり暗い時間だ。
平助は他の部の友人達と帰ってしまった為に、雪村とは今日も二人で帰ることになった。
「今日は本当にありがとうございました。」
雪村が礼を言っているのは、俺が剣道についていろいろ教えたことに対するものであろう。
部長に言われた通りのことをしたまでだ、と応えれば、
「とっても勉強になりました。」
と、花が咲いたような笑顔で言う。
「何故そんなに嬉しそうなのだ。」
俺はふと疑問に思ったことを聞いてみると、
「知識がない私に、とってもわかりやすく丁寧に教えてくださったのがとても嬉しいです。」
と言って、早く皆さんのお役に立てるよう頑張ります、と付け足す。
そういえば、家に剣道の入門書があった。雪村は読むだろうか。
聞いてみると、貸してほしいと言われた。
「明日は土曜日であるから、雪村さえよければ、後ほど届けに来るが。」
「先輩にそんなご足労かけてしまうのは申し訳ないです。」
気にするなと言えば、控えめな上目遣いで、お願いしてもいいのですか?と聞かれる。
「こちらから言い出したことだ。気にすることはない。」
「ありがとうございます。」
今度は少し頬が赤かった。
それから俺達は、好きな授業のことや苦手な科目を互いに言い合いながら帰路につく。
「古典はどうも難しくて苦手です。」
意外だな、と素直な感想を言えば、難しくて、と返ってきた。
「土方先生が教えて下さった参考書があるのだが…俺はもう使わないから、それも渡そう。」
ありがとうございます、ととても嬉しそうににっこりと笑って言ってくれた。
雪村の家の前まで到着し、一応、LINEの交換をして俺は本を取りに自宅へ急いだ。
雪村は勉強熱心でとても真面目なのだな。
そんな雪村の為に、何かやってやれることはないか…と厚かましいことを思ってしまう。
自宅へ着く直前にLINEが来た。
『せっかく教えていただいたので、早速送ってみました。
斎藤先輩、お疲れのところわざわざありがとうございます。
どうか無理なさらず、お気をつけてゆっくり来てくださいね。』
控えめな絵文字が使われたメッセージの後に送られてきたお辞儀をしている兎のスタンプが、なんとも雪村らしく思えた。