第2章 サクラ散る頃
朝、いつものように、校門へ遅刻者を取り締まりに行く。
今日は南雲はクラスの日直であるから、俺が一人で行くことになっている。
時刻がきたのでガラガラと門を閉めれば、様々な文句が飛んでくる。
そんなことは知ったことではない。
俺は俺の仕事をまっとうするまでだ。
生徒手帳で名前と学年クラスを確認していく。
今日は珍しい顔がそこにいた。
南雲の妹…雪村千鶴といったな。家の事情で彼女は雪村という姓を名乗っているが、南雲にとても似ている。
「…南雲の妹か。めずらしいな。」
思わず声に出してしまえば、小さく苦笑して、
「…寝坊しちゃいました。」
と、片目をつむり、まゆげをしかめてみせた。
南雲に似てはいるが、そこは性別の違いか…とても可愛らしい。
ん?可愛らしい?
「斎藤先輩、毎朝ごくろうさまです。」
そう笑顔で言われてしまっては、固まってしまう。
ここで遅刻者を取り締まっていて、文句の言葉はかなりの種類を制覇したが、労いの言葉など言われたことはない。
どう対応してよいものかわからず、とりあえず礼を言えば、よりにもよって先程可愛らしいと思った表情以上の笑顔で言われたものだから、直視できなくなってしまい目を逸らした。
一限目がはじまる前に、俺は役目を終えて教室に戻る。
教室に戻ると、目の前に南雲の姿。
やはり似ているな。だが…目元がもう少し優しいかんじだったか…睫毛も長かった――って俺は何を考えている…
「斎藤君、お疲れさま。」
「あんたの妹がいた。寝坊したそうだ。」
「…千鶴、二度寝したのかな。だめだね。明日からはしっかり起こさないと。」
「そういえば平助と一緒にいたようだが?」
「平助と?うちの千鶴を遅刻させたのはお前か!」
「ち、ちげーよ!俺は…まあ、いつもの通りにぎりぎりだったんだけどよ…ダッシュしてたら千鶴が家から出て来るのが見えたから…」
「それならいい。」
「ったく、千鶴のことになるとほんと怖えーよな。」
平助とは幼なじみと聞いている。仲が良すぎる…と、南雲がいつも愚痴をこぼしているが…
まあいい。俺には関係のないことだ。