第2章 サクラ散る頃
「斎藤先輩?どうなさったのですか?」
「…いや、なんでもない」
斎藤先輩は、片手で顔を覆って目をつむる。
頭痛いのかな?大丈夫かなぁ。
「………追いかけても別ににいいけど。一君の自由だよ。どうする?」
追いかける?
「……いえ。」
「……ふーん。そう。じゃあ、部活に集中してよ。一々迷惑だよ、そういうの。」
沖田先輩はいつになく怖いかんじだ。
「…申し訳ありません。」
斎藤先輩は静かに謝ってる。
何が起こったのだろう。
「斎藤先輩、顔色が悪いです…大丈夫ですか?」
千鶴が心配そうに斎藤先輩の顔を覗きこんでる。
そして、沖田先輩はさらに怖い顔になって、
「…今の会話でわかんなかったの?君、ちょっと鈍いよね。」
「…え?」
「まあいいや。夢主(妹)ちゃん、行くよ。」
厳しい声のまま、沖田先輩はさっき私達がいた場所へ戻っていく。
どうしたんだろ。沖田先輩も斎藤先輩も。
っていうか千鶴もなんだか怒られてた。大丈夫かな千鶴。怖い雰囲気の沖田先輩に、あんなこと言われたら、私なら泣いちゃうかも。
「…夢主(妹)ちゃん。」
沖田先輩が私を呼ぶ。さっきまでの怖さはもうなかった。
「…ごめんね?そんな顔しないでよ。」
私の顔を覗きこんだ沖田先輩は、ちょっと悲しそうだった。
「千鶴ちゃんを心配してるの?」
沖田先輩にはなんだか私の考えてることがお見通しみたい。はい、と答えれば、
「大丈夫だよ。ほら」
そう言って、千鶴達の方を見るように言う。
あ…ほんとだ。斎藤先輩とさっきより親しげに話す千鶴の姿が見えた。
「…まったく。これはもうあきらめるしかないだろうなぁ」
沖田先輩がぽつり、と呟く。
なんだか…胸がざわざわしてきて、私はなんだか落ち着かない。
それから沖田先輩と練習を続けて、終了の時間が来ても、このざわざわが収まることはなかった。