第11章 夏の終わりと蝉の声
ガチャリ
玄関のドアが開いて、よかったー家に入れる!なんてほっとする。
「あ…夢主(妹)…」
少し驚いた顔してるお姉ちゃんを不思議に思いつつ、
「よかったー!鍵見つからなくてさー。薫先輩が熱出しちゃって…。うわぁ!いい匂いするー!お腹すいたー!」
いつも通りお姉ちゃんにいろいろ話しながら家に入れば、男物の革靴が目に入った。
「あれ?お客さん?原田先生とか?」
邪魔しちゃったかな?
全くお姉ちゃん達ったらラブラブなんだから!
「あー…違うよ。これは…」
ん?原田先生じゃないの?
お姉ちゃんの顔を見ればなんだか気まずそう。
ってまさかお姉ちゃん…浮気…とか?
「夢主(姉)ちゃん、キッチンからピーピーって音してるけど大丈夫?」
家の中から知ってる声が聞こえて、心臓がドクリと鈍い音を立てた。
「夢主(妹)…あのさ…」
今の声って…
「夢主(姉)ちゃん?」
あ…ほら…
カチャっと部屋のドアが開く音につられて、そっちを見れば…
リビングがあるドアから、制服ではなくて白いTシャツにスウェット姿の沖田先輩が出て来た。
なんだか見た事のない雰囲気の沖田先輩。
「あ…」
私を見て沖田先輩の目が大きく開く。
「んーと…夢主(妹)あのね…」
一瞬、真空状態に陥ったような空間に、お姉ちゃんの声が響く。
最後まで聞く勇気がなくて、その声を遮った。
「あ…そっか…!そうだよね…やっぱり…うん…。お、お邪魔しましたっ!」
玄関を出てそのままとにかく走った。
どうしようどうしよう…
悲しいとかそんな感情じゃなくて…
頭は真っ白で、心臓は痛くて、胸のあたりが苦しくて…涙が勝手に溢れてきた。
バシャバシャ
足元はさっきのゲリラ豪雨で出来た大っきな水溜り。
下に溜まってた泥で濁ってる。
そのままそこにしゃがみ込んで、溢れて来る涙に身を任せた。
私はなんで泣いてるんだろう?
沖田先輩…
私は…
「沖田先輩…好きです…」
大っきな泥で濁った水溜りの真ん中で、小さく小さく呟いてみる。
聞いてくれたのは…同じ水溜りに居たアメンボだけだったけれど。