第11章 夏の終わりと蝉の声
雨上がりの空は、さっきまでの豪雨が嘘みたいな色だけど…普段はあんまり感情的にならない総司が、土砂降りの中に佇んでいた光景が忘れられない。
日も落ちてきて、カーテンを閉める。
夢主(妹)が居なければ、普段は一人だけの空間に、今日は総司が居る。
私は友達がいないから、家族以外がリビングにいるのがなんだかくすぐったい。
総司は性別はめんどくさいとかなんとか言ってるけど…きっとそんなの本人達次第なんだと思うなぁ。
それでもやっぱり、夢主(妹)に秘密で総司と二人だけなのは気が引けて、総司が居るなら誰かに見られても大丈夫かな?って、左之助を呼んだ。
ブーブーブー…
「はーい。うん。わかったー。車、玄関前に置いて平気だよ。お父さんもお母さんも出張だから。うん。はーい。気をつけてね。」
今から行くっていう左之助の電話に、少しだけ心拍数が上がる。
思いがけず、会えることになって嬉しいな。
「嬉しそうだね?僕邪魔なんじゃない?」
顔がにやけてしまっていた自覚はあるから、それを見られたのが恥ずかしい。
「むしろ総司がいるから呼べるんだよー。ありがとう!」
「僕がこーんなにそばにいても、全く照れたりしないのって夢主(姉)ちゃんくらいだよ。左之先生にはそんな顔しちゃうくせに。」
キッチンのカウンター越しに総司と会話をする。
「ねえ、総司。夢主(妹)が好きなんでしょ?」
今日はなんだか変だから、なんとなく話題にし辛かった事を口に出した。
「…だったら何?」
想像通りの不機嫌そうな声が返ってくる。
「べつにー。」
なんて、本当は夢主(妹)が総司を好きな事も知ってるし、早く付き合っちゃえばいいのにって思ってるけど。
声には出さないでおく。
好きなだけじゃ、どーにもならないこともあるしね。
1年生のはじめ…屋上で仲良くなったばっかりの頃、帰り道が同じ方向だったけど、一緒に帰ったりはしなかった。
学校からうちまでは歩いても帰れるけど、電車で一駅。
駅前あたりで、女の子にキスをしてる総司を見かけた事があるけど…
あ、彼女いるんだー…くらいにしか思ってなかったけど、そういえば彼女の話とかは聞いた事は無かった。