第11章 夏の終わりと蝉の声
しばらく泣いてたと思う。
落ちついて涙を拭けば、アイスはすっかり溶けてしまっていた。
「平助先輩ありがとうございました!!すみませんっ!落ちつきまし…」
すっきりしたのもあって、少し元気になって…お礼を言いながら平助先輩を見れば…平助先輩も泣き出しそうな顔をしていて、言葉が詰まる。
「平助先輩も何かあったんですか?私でよければ愚痴でもなんでもど…」
「俺じゃダメ?」
愚痴でもなんでもどうぞ!と言う予定だった言葉はさえぎられて、平助先輩の声と重なる。
「俺さ…夢主(妹)の元気なとことか…たまにすげえ頑張りすぎてるとことかさ…帰り道に話すどーでもいい話とかも夢主(妹)となら楽しくて…」
溶け続けるアイスは、棒から指へ伝ってポタポタと地面に溢れ続けてる。
「何言ってんだ…俺…ってか…」
雨の音も車が通る音も聞こえなくて、いつもより低い平助先輩の声だけが鮮明に聞こえる。
「俺、夢主(妹)が好きだ。総司部長が好きなのもわかってるし…今すぐじゃなくていいから…」
私の目と平助先輩の目が、ピタっと音がなるように合って、真っ直ぐなその瞳は…なんだかすごくかっこよかった。
「俺の事もちょっと見てみてよ。部活してる時とかさ…。夢主(妹)の眼中に入れて。」
いつも元気で明るくて、気さくで話しやすくて、一緒にいると楽しいって思ってた平助先輩を、私はきっと沖田先輩みたいにドキドキする位置で見ていない。
自分のアイスをすごく顔を近づかせて食べた平助先輩に、びっくりするどきりはあっても、沖田先輩みたいなドキドキはなかった。
平助先輩はそれをわかっててもなお、私を好きだって言ってくれてる。
でも私は…
「あー…タイミング悪くてごめんな。夢主(妹)が苦しんでんのに。まあ…そんな深く考えなくていいよ。俺もかっこいいとこあるぜ?っつー宣伝かな?」
コツンと私のおでこを指で弾いて、平助先輩はニッと笑った。
「雨止んだなー!!ってお前アイス溶けすぎ!」
あはははと笑う平助先輩の目には、私が沖田先輩にドキドキするようなかんじで私が映ってるのかな?
「ベタベタじゃん。コンビニ戻って手洗えって。」
私が戸惑わないようにいつも通り接してくれてる。
雨上がりの空の下で明るく笑う平助先輩は、なんだか虹みたい…って思った。