第11章 夏の終わりと蝉の声
沖田先輩が部活に顔を出してくれた。
久しぶりの沖田先輩は、道着ではなくて制服だけれど…先生達もすごく嬉しそう。
ドキドキするなぁ。
会話らしい会話なんて全然してないけれど、この場所に沖田先輩がいるって…それだけで、息が出来ないくらい苦しい。
今日は一緒に帰れるかな?
そう思って、部活中うきうきしてたのに…
沖田先輩は部活が終わる前に帰ってしまった。
いつもだったら、「一緒に帰ろう」って…私をドキドキさせる笑顔をくれるのに…
やっぱり私の告白は、沖田先輩の意図的に言わせてもらえなかったんだと思う。
なんで?告白するのは私なのに。
付き合ったり出来ないなら、断ればいいのに。
言わせてもくれないなんてずるいよ…
制服に着替えて、外に出れば…まだもわっとした暑さが残ってるのに、ちょこっとだけ秋の匂いがした。
秋が嫌いなわけじゃないのに、それが無性に寂しく感じて、涙が溢れてくる。
「夢主(妹)ちゃん大丈夫?」
千鶴の声で我に返って、ゴシゴシと目をこすった。
「夢主(妹)!今日もアイス食わねえ?別のコンビニ行ってみようぜ!」
肩をポンと叩きながら平助先輩にそう言われて、
「はい!行きましょう!!」
なんて、元気に応える。
千鶴はすごく心配そうだったけど、うまく話せる自信がなかったから、平助先輩の明るさに少し救われた気かした。
昨日とは違う道を歩いて、少し遠回りしたところにあるコンビニまで。
昨日観たテレビに出てた変な食べ物の話とか…平助先輩が好きな漫画とか…私が好きな漫画とか…そんなたわいもない会話をしながらゆっくり歩く。
道中、ひっくり返った蝉に、
「夏も終わりかー。お前ら相手見つかったかー?」
なんて話かける平助先輩を可愛いと思ってしまった。
もう動かないと思って油断していた蝉が、突然ビビビビと動き出して、驚いたり…
なんだかすごく楽しい。
コンビニに着く頃に、だんだん空が灰色になって、雨の前の独特な匂いがし始めた。
「あー…ゲリラ豪雨の匂いすんなー。夢主(妹)、通り過ぎるまでアイス食って待つしかねえな。」
あ…平助先輩もこの匂い分かったんだ…なんだかちょっと嬉しい。