第11章 夏の終わりと蝉の声
目覚ましのアラームが鳴るのを先回りして、停止ボタンを押す。
開けっ放しの窓から、朝日と一緒にラストスパートだとばかりに鳴いてる蝉の声が聞こえてる。
アラームを停止させたスマホを枕にポンと投げて、立ち上がった。
まだ夏休みの宿題は終わってないし、やらなきゃなんない事は沢山あるけど…
夢主(妹)はもう起きたかな?とか…意味わかんねえ事ばっか思いつく。
なんなんだこれ。
総司部長達が引退して、一君が部長になった。
割と自由で、やる気ない奴らはほっといてた総司部長とは違って、一君はかなり厳しかった。
案の定、やる気のない奴は来なくなったり…してるけど、まあそれは仕方ないと思う。
昨日夢主(妹)が雑巾がけをしてた。
新八先生に、「雑念が過ぎるので」とかなんとか言ってたのが聞こえて、なんだそりゃって笑っちまった。
ダダダダと修行僧並みに、一心不乱に雑巾がけをする夢主(妹)は、うさぎだとかあらいぐまだとか…そういう類の動物にも見えて、思わず目で追っちまう。
俺がそうやって夢主(妹)を目で追って、ぼーっとしてると、ダダダダと突進して来た。
「っておい!夢主(妹)!」
って声かけたのも避けるのも遅くて、そのまま俺の足元に突っ込んだ。
「いってー…」
咄嗟に足を踏ん張ってガードするつもりが、あまりの勢いに転がっちまった。
ぶつかった脛と受け身をとろうとした肘が痛い。
そういや夢主(妹)…
「いたたたたた…」
背後から声が聞こえる。
「大丈夫か?」
眉間の辺りを押さえてうずくまってる夢主(妹)の目の前にしゃがんで、顔を覗き込めば、
「平助先輩すみませんっ」
と、言ってきた。
避けれなかった俺も悪かった、と謝ったところで、
「なんだよ夢主(妹)。随分と雑念とやらがすぎるじゃねーか。」
と、怒ってるわけではないんだろうけど、厳しめな新八先生の声がした。
「疲れてんなら少し休め。雑巾もおしまいにしとけよ。」
夢主(妹)の腕を持ち上げて立たせながら、新八先生はそう言って、「何考えてんだか知らないけど、無理すんなよ?」と、頭をぽすぽすと撫でてる。
「はい…」
しょぼくれた夢主(妹)の声は小さかった。