第11章 夏の終わりと蝉の声
日が落ちかけてるというのに、あんまりヒグラシの声は聞こえなくて、その代わりに鈴虫の声が聞こえてる。
まだ後ろに夢主(妹)ちゃんの視線を感じるけど、知らない振りして振り返らない。
ごめんね夢主(妹)ちゃん。
君が言おうとした言葉は僕は知ってる。
同学年の部員達も先輩達も、元々あんまりやる気が無くて、個人選で勝ち抜く僕のせいで、休みの日まで試合で部活に来なきゃならない事に文句ばかり言ってた。
剣道は好きだし、僕は強いから負けないし、試合に勝ち進めば近藤さんも喜んでくれる。
ただそれだけだった。
風間君とは剣道をはじめた小学生の頃に、近藤さんに連れて行ってもらった全国大会からの付き合い。
僕が勝ったり、風間君が勝ったり、それを繰り返してきた。
だから今日の試合の結果も、そんなに気にならない。
まあ・・・勝ち誇った風間君のドヤ顔を見たら、なんだかくやしかったけど、それでも別にどうってことなかった。
僕がそんななのに、夢主(妹)ちゃんはすごくくやしがってくれて、なんだかすごくくすぐったい。
いつもの帰り道。
夏の間中、毎日のように夢主(妹)ちゃんと一緒に帰ったから、今日が最後になるんだなぁなんて思うと、なんだか何を話したらいいかわかんなくなった。
夢主(妹)ちゃんを見てると、いつも一生懸命で・・・見てると僕が照れそうになる。
自然とつられて、僕まで一生懸命になっちゃったりして、汗だくになって後輩に稽古をつけてる時に、ふと我に返って可笑しくなるんだ。
この子は左に隙がありすぎるから、直してあげなくちゃ・・・とか、あの子は右脇が甘いからこういう稽古をしたらいいんじゃないか・・・とか・・・
ちょっと前の僕なら考えもしなかったのに。
他の人が強くなる方法とか、弱点の克服方法なんて、見えたとしてもどう直せば良くなるかなんて考えもしなかったのに。
僕が教えて、一緒に稽古をして・・・その子の技量が上がると、自分のことみたいに嬉しくなる。
そうやっていつの間にか、自分以外の稽古にのめり込んで、最近は毎日学校に来るのが楽しいとでさえ思えた。