第11章 夏の終わりと蝉の声
「苗字」
そんな考え事ばかりして、素振りが雑になっていた私の前に、斎藤先輩が居た。
「剣先が乱れている。少し休憩を挟むといい。・・・雑念はすぐに竹刀に出る。」
厳しい口調だけど、考え込んで肩にも力が入っていた私を気遣ってくれる斎藤先輩に、雑念ばかりだったことがばれていて、なんだか恥ずかしい。
「夢主(妹)ちゃん。麦茶どうぞ。」
すかさず千鶴が麦茶をくれた。
井上先生や永倉先生の指導の隙間に、部員に声をかけてまわっている斎藤先輩の姿を目で追う。
そして、麦茶だったり、タオルだったり、スコア表だったり・・・先生を呼んだり・・・と、斎藤先輩の後ろから確実にフォローをしてまわる千鶴の姿があった。
なんていいコンビなんだろう。
いいなぁ。
時々、忙しく動きまわる千鶴を、斎藤先輩はこれまたすごく優しい表情で見てたりする。
気持ちが通ってるっていいな。
どうしたら沖田先輩と気持ちを通わせることができるのかな?
両思いになりたいだなんて・・・うぬぼれなのかな?
休憩しても雑念が取れない。
沖田先輩にとって私はなんだろう?
そんなことばかり考えてしまう頭をコツンと叩いて、
「永倉先生!ちょっと雑念がすぎるので、雑巾がけしますっ!」
と、近くに居た永倉先生に宣言をして、体育館を修行僧のように雑巾がけすることにした。
沖田先輩と私の不思議な距離が縮まることはあるのかな?
広い体育館に一瞬怯んだ隙に、またそんなことを考えてしまって、ぶんぶんと頭を振る。
いつも凛としている袴姿の沖田先輩は、稽古も妥協はしなかった。
こんな雑念に駆られて、適当な竹刀さばきじゃ、縮まる距離だって縮まらない。
自分に渇を入れて、ダダダダダと無心に広すぎる体育館の雑巾がけをした。