第11章 夏の終わりと蝉の声
もうすぐ夏休みも終わっちゃうっていうのに、蝉の声は収まることなく聞こえているけど、日が沈むと、ほんの少しのヒグラシに混ざって鈴虫の声が聞こえはじめてる。
夏の間はあんなに五月蝿いと思っていた蝉の声が、だんだんと聞こえなくなるのはなんだか寂しかった。
鳴き終えた蝉がひっくり返ってる横を通り過ぎて、部活の為に学校へ急ぐ。
まだまだ耳を塞ぎたくなるくらいどこに行っても蝉の声がした8月のはじまり。
合宿を終えて、無理やり遠征に同行して…また部活の日々で…全国大会がやってきた。
決勝戦は、武道館の空気を二人が全部動かしてるような試合で、九州での戦いより、沖田先輩の声も風間って人の声も響き渡って澄んで聞こえた。
風間って人がはじめに一本とって、流れはそっちに…っていう感じだったけど、そこはさすが沖田先輩。
その後は全く攻めこませず…試合はすごく長く感じた。
みんな息を飲んで見守る中、パァーン…という竹刀の音と…
聞きなれない低い掛け声が響きわたる。
それは最後の痛恨の一撃で、沖田先輩は負けてしまった。
礼をする姿を見ながら、くやしくて涙が沢山出たけど、沖田先輩に見せるわけに行かないから、必死で止めて、
「沖田先輩おつかれさまです!全国2位なんてすごいっす!まじすごいっす!」
と、わけのわからない言葉遣いになってしまいながら、駆け寄ると、
「ありがとう夢主(妹)ちゃん。あーあ。負けちゃった。」
なんともないかのように、沖田先輩はいつもの笑顔で…
「あはは。そんな顔しないで平気だよ。風間くんとは長い付き合いだからね。ただ今回負けちゃっただけ。」
そう言う沖田先輩は、少し目を細めて、私の前髪をさらりと撫でた。
「ありがとう夢主(妹)ちゃん。目が真っ赤だよ?僕が悔しくて泣く前に泣いてくれたのかな。まあ僕は泣かないけど。」
笑っているけど、すごく優しい声色だった。
ああやっぱり沖田先輩はかっこいい。
絶対悔しいはずなのにな。
部員達に集合をかける沖田先輩の後ろ姿は、凛としていてとってもかっこよかった。
大会が終われば三年生は引退する。
夏休みに浮かれて、合宿に浮かれて…現実感がなかったけど…明日から部長は斎藤先輩になるんだ。
これが沖田先輩の袴姿を見る最後なんだと思うと、さっきとは違う涙が出て来た。