第9章 西の鬼と東の大将
会場の外の駐車場の端くれに唯一ある喫煙所で、カチリと煙草に火をつける。
無防備すぎる夢主(姉)がでこを触らせてやってる姿が脳裏に浮かんで、どうしようもない感情に襲われた。
ったくあんなもんで情けねえ。
そう思うのとは裏腹に、あの風間って奴といつどこで知り合ったんだ?だとか、でこに傷ってなんだ?なんて考えちまう俺はまだまだ青いな。
昼間っから、俺に触りてえだとかなんとか煽るようなことばっかり言いやがって・・・
考えることが夢主(姉)のことばかりな自分に気がついて、誰も居ない喫煙所で一人くくく、と笑った。
待機スペースに戻れば、部員達はもう着替え終わっていて、相変わらず総司は他校の生徒に囲まれていた。
たまたま隣にいた夢主(姉)が、総司の首から落ちたタオルを拾い上げて無言で渡すと、それを総司は無言で受け取る。
その様子を意味ありげに、斎藤と夢主(妹)以外の部員達と他校の生徒達がちらちらと見ていた。
ああ、そうだった。
総司とはいろんな噂があるんだったな。
なんだよ他の生徒も勘違いしてるのかよ?
まあ総司は俺らの事を知ってるみてえだし、いい隠れ蓑だな。
1年の頃からこいつらの関係を知ってるからか、どんな噂が流れようが全く気にならなかった。
「やはり沖田の女か?」
物凄い存在感で他校の生徒を割って入ってきたのはあの風間だった。
西と東の大将が揃っちまえば、必然的に注目を浴びる。
「ん?私?ぜーんぜん違うよ?」
きょとん、としながら返事をする夢主(姉)に、
「そうか。帰宅は今日か?」
と、風間は続ける。
この流れは・・・といち早く気づいた総司が、俺の顔を見てにやついつた。
「んー?明日かな?」
「そうか…ならば…」
さあ、どう出るんだ風間、なんて、この流れを見守る。
「この後時間はあるか?」
他校の生徒やうちの生徒に注目されてる中で口説くなんざ、なかなかやるじゃねえか。
だが…
「おい、そろそろ行くぞ?」
夢主(姉)が風間に答える前に、教師権力を振りかざして割り込んだ。
あはははと笑う総司の声が聞こえる。
これぐらいは許せ。
涼しい顔した風間と、ばちりと音が鳴るように目が合ったから、にやりと笑ってやった。
悪いが黙って口説かせてやるほど俺も大人じゃねえんだ。