第9章 西の鬼と東の大将
紺色の袴を着た沖田先輩は、やっぱり誰よりもかっこいいと思う。
皆より頭一つ分くらい背が高いから目立つし、竹刀を構えた姿勢はとっても凛としていてかっこいい。
ものすごい人数があつまっている会場は、熱気と汗の匂いでいっぱいだった。
うちの学校は、今の所斎藤先輩と沖田先輩が出る幕もなく、三番手の平助先輩が勝ち越したまま準々決勝まで来た。
「今のうちに昼にするか!佐之と夢主(姉)が弁当買ってきてるから、食おうぜ。」
待機場所として開放されてるスペースに行けば、お姉ちゃんと原田先生が見えた。
「おつかれさん。平助なかなかやるじゃねえか。」
そう言って平助先輩を褒める原田先生の隣で、合宿ですっかり慣れたお姉ちゃんがお茶を配ってる。
「あ、一君!」
斎藤先輩にお茶を渡したお姉ちゃんは、おもむろにスマホを取り出して、写真とらせて?なんて言い出した。
さすがの斎藤先輩もびっくりしてる。
「あはは。違うよ?千鶴ちゃんに送るの!来れなかったから。」
「な・・・」
斎藤先輩は赤くなって動揺してる。
「何?やっとくっついたの?」
そんな様子を見た沖田先輩が、お姉ちゃんの横から口を出して、部員みんなに千鶴と斎藤先輩の事が伝わってしまった。
お姉ちゃんの馬鹿・・・と思ったけど、お姉ちゃんと斎藤先輩の関係を気にして、なんとなく気を使ってる皆の空気を変えたかったのかも?
結局先生も含めたみんなの集合写真になってしまったけど、千鶴からはすごく嬉しそうな返信が来たから、よかったよかった。
沖田先輩の隣で、おいしいお弁当を食べる。
嬉しいなぁ。
午後の試合は沖田先輩の出番あるかな?
まさか平助先輩の独断場だったりして・・・
なんて思いながら横に居る沖田先輩をちらりと見れば、お茶を飲んでる沖田先輩と目が合ってしまった。
「なあに?」
「い、いえ!」
あはは、と笑う沖田先輩に、やっぱり顔が熱くなる。
「夢主(妹)ちゃん、午後はきっと僕の活躍が見れるよ。」
思ってたことを見透かされていたみたいで恥ずかしい。
「総司先輩も一君も、出番なんてないぜ?」
と、平助先輩も張り切ってる。
いいなぁ。
私も今だけ男子になりたいなー。