第9章 西の鬼と東の大将
「お姉ちゃん…」
消灯の時間を過ぎても騒がしかった男子部屋から聞こえていた、土方先生の怒鳴り声が収まって、これも今日が最後だと思うとなんだか寂しい。
まくら投げ楽しかったなぁ…
でもそれより…そわそわとしてどうしようもないから、お姉ちゃんに言いたい。
「あのさ…」
すーすーと静かで規則正しい千鶴の寝息が聞こえてる。
起こさないように静かにしなきゃ。
「ん?何?」
揺すり起こしたお姉ちゃんは眠そうだけど、今しかない!
明日からの九州遠征の話は、私は聞いてなかった。
遠くだからみんなで行けないし、女子部員が私だけで、チームが組めないから仕方ないけれど、それは動画サイトで何度も見た事のある憧れの大会だった。
沖田先輩達が出るなら、絶対見たい。
「私も九州行きたい〜!」
さすがに合宿からそのままとは行かず、一度帰宅してから両親に頼み込み、お姉ちゃんと二人で九州へ旅行が出来ることになった。
普段なら、面倒くさい事が大嫌いなお姉ちゃんだけど、合宿後すぐで疲れてるはずなのに、付き合ってここまで来てくれたのが嬉しい。
初めての場所にお姉ちゃんと二人だけで、なんだか緊張する。
予約を入れてくれたホテルは、駅前って聞いたけど…
キョロキョロとあたりを見回す私の手を、
「迷子にならないでね〜」
と、お姉ちゃんが掴み、
「あ、ついたよー」
と、電話をし始めた。
お母さんかな?まだホテルにたどり着けてないから、油断できないよ、お姉ちゃん!
「あ…見えた〜」
電話をしていたはずのお姉ちゃんは、突然手を振る。
手を振ってる先を見ると、柱に寄りかかって腕を組んでる原田先生がいた。
「おつかれさん。」
「わざわざありがとう。」
笑顔の原田先生と、ちょっとだけ照れてるお姉ちゃんを交互に見る。
「そんじゃ行くか。」
ひょいひょい、と私達の荷物を持つ原田先生に、自分で持ちます!と慌てて取り返した。
「ははは。夢主(妹)、遠慮すんな。今日はお前らは旅行だろ?」
「わ、私は部活です!」
そりゃ悪かった、と笑う原田先生に、お姉ちゃんは嬉しそう。
「私も自分で持つよ〜」
「ん?ああ、気にすんな。」
そんなやり取りを横で見てると、なんだか恥ずかしくなってきた。