第5章 夏の暑さと恋模様
「ふふ。斎藤先輩ありがとうございます。」
自分の中で一番の笑顔でそう言えてたらいいな。
「実は…今日はおにぎりも持ってきたんです。いかがですか?」
毎回、お稽古が終わると13時過ぎだし…お腹空いてるかな?と思って持ってきた。
「頂こう。あんたは優しいな。」
中身は梅干しと鮭。無難な具だけど、塩加減とか…お口に合うといいな。
斎藤先輩が好きなものはなんだろう。
まだまだ知らないことがいっぱい。知りたいことがいっぱい。
私が握ったおにぎりを斎藤先輩が食べてると思うとちょっとくすぐったい気分になって、ちらりと斎藤先輩の横顔を盗み見する。
食べ方もきれいで、なんて抜け目のない人なんだろうなんて思っていれば、
くすり、と笑った斎藤先輩が、私に手を伸ばしていて…
私の口元についたご飯粒を取って、それをペロリと食べて、少しだけ悪い笑みを浮かべてた。
うわぁ恥ずかしい…っていうか斎藤先輩って…たまにこういう顔するよね…
なんか…
いやらしい!!!
そう思ったらますます恥ずかしくなって、私はしばらく上を向けなかった。
斎藤先輩のくすくすと笑う少し意地悪な声が聞こえる。
夏はこれから。明日でテストはおしまいだし…部活は毎日のようにある。
そうだ。明日は合宿説明会もあるんだった。
楽しみだな。
斎藤先輩と帰る、いつもの帰り道。
暑くてクラクラしそうな太陽に照らされながら、二人で歩く。
まだまだ距離は遠いけど。
いつかこの距離が縮まりますように。