第2章 サクラ散る頃
―――カタン
物音が聞こえて、そちら向けば、
ドアの前で固まっている二人の姿が見えた。
女子生徒が二人。
一人は……
―――雪村だ
瞬間、夢主(姉)から体を離してしまった。
「夢主(妹)?どうしたの?」
何事もなかったように、夢主(姉)はもう一人の女子生徒に声をかけた。
「あ…え、えっと…お邪魔してすみません…え~っと……お箸忘れちゃって…お姉ちゃんはいつも予備持ってるから貰おうと…教室行ったら、ここだって言われたから…」
「そっか。わざわざこんなとこまでごめんね?ちょっとまってね……はい、これ使って。」
「あ…ありがとう。」
「いえいえ。…あっ!ねぇ、保健室にいた子だよね??もう起きて大丈夫なの?」
「えっ?あっ!はい!大丈夫です!…あ…保健室にいた先輩…」
「そうそう!覚えててくれたんだ。大丈夫そうでよかった。」
別に後ろめたいことをしていたわけではない。
夢主(姉)と俺は恋人であるのだから、このくらいのことは普通だろう。
しかし…なぜだ…何かがひっかかる。
「一君」
呼ばれて我にかえる。
「妹の夢主(妹)。」
「ああ…」
「こちらは彼氏の斎藤一君。」
「か、かれし!ど、どうも…」
なぜこんなに動悸が激しくなる。
「えっと…千鶴ちゃん…うちの姉。」
「夢主(妹)ちゃんのお姉ちゃんだったんだ!雪村千鶴です。よろしくお願いします。」
「よろしく〜。」
そう言って夢主(姉)は俺を見る。
「…雪村のことは知っている。お兄さんが同じクラスだ。」
「そうなんだ!」
なんだかいろいろ偶然だね、と、笑う夢主(姉)。
俺の心はなにかがひっかかったままだ。
「あの…お、お邪魔しました!」
ペコリとお辞儀をして二人は急いで屋上のドアを閉めた。
「そんなにあわてなくても…」
二人の姿を見送るように、ドアを見つめながら夢主(姉)は言う。
俺は…どうしたのだろう。
この場から早く去りたかった。
「…昼飯を食べに戻る。」
本来ならば…教室に取りに戻って、ここで一緒に過ごすのが普通であろう。
不自然ないい訳をして、俺はその場を離れる。
「……うん。またね。」
背後から、少し寂しそうな声が聞こえる。
だが…俺は夢主(姉)の顔をまともに見ることができなかった。