第2章 サクラ散る頃
四限目が終わるチャイムがなれば、それぞれに昼飯を食べる準備に教室は賑やかになる。
授業中、ずっと雪村の様子が気になって仕方なかった。
いっそ保健室に行ってしまおうか…と思ったのだが、いざ授業が終われば、俺には他に考えることがあることに気づく。
…今日は学校に来ているのだろうか?
そう思えば、向かう所はひとつだった。
屋上のドアを開く。
―来ていたか
綺麗な髪をなびかせ、空を見上げている女の姿を見つけ、安堵の息が漏れる。
「…夢主(姉)」
俺の声に、夢主(姉)はゆっくりと振り返った。
「おはよう。一君。」
そう言って俺を見つめる笑顔は、吸い込まれてしまうほどに眩しい。
「最近遅刻をしないな。」
「門番な一君に会いたい気もするけど、妹が入学したから一緒に来てるの。」
「…なるほどな。」
妹が入学…か。
もうすぐ4月も終わるというのに。そんな情報を今くれるのか。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いていない。」
「そっか…ごめん。」
「謝ることではない。」
謝ることではない…が…俺は知らないことがありすぎる。
俺はあんたを知る権利があるのではないのか?
それとも、知りたいと思うこと自体が間違いなのか…それすらわからなくなる。
「夢主(姉)、俺はあんたの何だ?」
自分でも笑ってしまうほど、幼稚な言葉を吐き出した。
「何って…一君は私の彼氏でしょ?違うの?」
ひとつ歳は上だが、俺よりはるかに背が低い。ふわりと歩いて、夢主(姉)は俺の目の前まで来た。
そして、俺の両腕をちょっとだけ掴んで、顔を覗きこんでくる。
「一君大好き。」
睫毛をパッチリと上をむかせた大きな目で、俺を見つめる。
――ああ、俺はこれに弱い。
そのまま夢主(姉)の唇に自分の唇を重ねた。