第5章 夏の暑さと恋模様
期末テストの間、部は一時休みになる。
だが、毎日しっかりと稽古をしておかねば鈍ってしまうし、落ち着かない。
テスト中は自主練という名目で、一時間だけ稽古をすることを許されていた。
かと言って、わざわざ稽古をしにくる者などいない。
「斎藤先輩、おつかれさまです。」
稽古をあがろうとしていると、背後から雪村の声がした。
振りかえると、ふわりとした笑顔で、雪村はタオルを渡してきたので、それを、すまない、と言って受け取る。
「冷えた麦茶もありますが、お飲みになりますか?」
小さな水筒を出して、俺に差し出す。
「あ…ペットボトルの物だと温くなってしまうと思って…。」
家で煮出した麦茶で申し訳ないですが、と、少し頬を赤くして小さな声で言われた。
「ありがたくもらおう。あんたは気が利くな。」
水筒の蓋をあけて、麦茶を口に含めば、よく冷えていて、稽古で暑くなった体に染み渡った。
「うまいな」
ぽつり、とそう呟くと、雪村は頬を赤くしたまま更に微笑む。
「しかし…今は期末テスト期間だ。マネージャーとはいえ、これは自主練だから付き合う必要はない。」
稽古を終えれば、いつもの部活終わりのように、雪村と二人で帰宅をする。帰り際にこう言うと、
「いえ、私がそうしたいと思っただけなので…お気になさらないでください。お邪魔でしたらすみません。」
邪魔ではない…いや、邪魔なはずがない。
稽古を見てるだけではつまらないだろう、と言えば、
「そんなことないです。斎藤先輩のお稽古を見るの好きですから。」
そう言い終えて、雪村はハッと口元を押さえながら赤くなって俯いた。
その一連の様子を伺っていれば、雪村が俺に対して好意を持ってくれていると確信できて、クククと少し意地の悪い笑いが込み上げる。
「ならば…明日もつきあってくれるか。」
試験に影響なければ、と付け加えて言うと、雪村は「はいっ」とそれはそれはうれしそうに返えして来た。