第5章 夏の暑さと恋模様
朝からなんだか具合が悪い。
二限目は永倉先生の数学だった。
普段から数字の軍団を見てるだけでもクラクラするのに、今日みたいに頭痛がすると、黒板を見ただけで目が廻る。
あ~もう無理。
先生達にいろいろ言われるのがめんどくさくなったのと、ちゃんと卒業しなければ…と、最近は授業をさぼらない。
でももう限界。
ひらひらと手をあげて、永倉先生を呼ぶ。
「ん?どうした?」
数式を解くのを中断して、永倉先生は私の方へ来る。
具合悪いから保健室に行ってくる…と、言えば、
「…今日は本当みたいだな。一人で大丈夫か?」
一瞬私をじっと見て、仮病かどうか判断したみたいだった。
大丈夫です、と言って、ふらふらと教室を出る。
「また?」だとか「先生、苗字さんにだけ甘い」だとか「俺が保健室まで連れてく」だとか、いろいろ聞こえるけど気にしない。
廊下に出ると、もう夏休み手前だっていうのに寒気がした。
う~ん…これはやばいかも。
急ぎたいけど走ることもできず、ふらふらと保健室を目指した。
ガラガラとドアを開けて室内に入れば、
ガーゼに消毒液をふくませている山南先生と、その前に座る女子生徒、そして女子生徒の後ろに原田先生がいた。
失礼しま~す、と軽く挨拶をすれば、一斉にこちらを向く。
原田先生に授業意外で会うのは久しぶりだなぁ…。
忘れられない原田先生のにおい。
でも、用もなく抱き着くわけにもいかないし、なんとなく原田先生に近づけなかった。
そんなことを適当に空いている椅子に座ってぼーっと考えていると、山南先生が怖い顔をして目の前まで来た。
あ…やばい。
山南先生は仮病の時は優しいのに、私が熱を出したり怪我をしたりすると、途端に怖くなる。
他の生徒が熱出すと優しいのに…変なの…。
案の定、怖かった。
手当てを受けてた女子生徒も、山南先生の異変に気がついてさっさと退散してしまった。
原田先生はそんな山南先生と私の様子を伺ってるのか、まだ保健室にいる。
と、とりあえず…原田先生にも、怖いよね?なんて話を振ってみる。