第6章 戯
何で、あのとき。
あんな顔で俺を見た?
お前は俺に何か言いたいの?
それとも、聞いて欲しいことでもあんの?
お前は俺から逃げたいの?
それとも、俺に捕まえて欲しいの?
警官ごっこの続きをご所望か?
それとも、何だ?
俺ァ、どれも御免被るぜ。
こっちの用件が終わるまで。
とことん付き合ってもらう。
その後なら、好きなだけ我儘言えばいーんじゃね?
依頼でも、個人的なお願いでも。
全部、叶えてやるから。
もう、引き返せねェとこまで来てるから。
差し伸べた手。
今更離すなんて。
そんな馬鹿はしねェ。
もっとキツく握り返してやるから。
万事屋 銀ちゃんに、甘えちゃえばいーんじゃね?
路地をぶらぶら歩いて、万事屋に向かう。
左手のあずきバーは、最後の一口。
さっきまで肌に張り付いてた服は、適度に乾いて。
不快指数が低下した。
かぶき町は普段と変わらず、喧騒に包まれている。
食べ終わったアイスの棒をくわえながら。
俺は重い足取りで、階段を上った。
踊場でふと、足を止める。
普段は見受けられない、影に視線を向けると。
女が座っていた。
「馬鹿だねェ…」
あんだけ走って逃げといて。
自分から鬼の元に来るなんて。
「危ないよ?自ら捕まりに来ちまったら」
眼前の獲物を逃がすほど。
落ちぶれちゃいねェ。