第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
屯所は騒がしく、夕方になる頃にはまるで祭でもあるような、そんな熱気に包まれていた。
そんな騒ぎの中、帰ってくるなり山南からのお説教を受けた千鶴と、土方から「部屋へ戻れ」と言われた夢主(妹)は、
二人でおとなしく部屋に居た。
夢主(妹)の顔色がいつもより悪い。
いつもの元気もないように思えた。
「夢主(妹)ちゃん大丈夫?具合悪い?」
千鶴はいつもハツラツとしている夢主(妹)の様子がおかしいことに気がついて、心配をしていた。
「大丈夫大丈夫!」
夢主(妹)は、ハッと我にかえって千鶴に微笑んだ。
さっきから心ここにあらず・・・そんな状態だった。
知ってる史実と記憶が正しければ、今頃土方が古高を拷問している頃である。
何故か古高の拷問だけは、史実上クローズアップされている為、夢主(妹)の「池田屋事件」という知識の中に組み込まれていた。
ドタバタと喧騒のようなものが聞こえる。
千鶴が部屋から外を覗けば、五寸釘と蝋燭を持った永倉と鉢合わせた。
「あの、永倉さん。・・・・・・その五寸釘、何に使うんですか?」
「なかなか口を割らなくてよ・・・こういうことはわからねぇ方が幸せだって」
部屋の中に居た夢主(妹)に、二人のそんな会話が聞こえてくる。
ああ、間違いないんだ・・・
すっかり此処に馴染んでしまったような気になっていて、毎日のように雷のような怒鳴り声を聞いているものの、
本物の「鬼の副長」の姿を夢主(妹)は知らない。
時々苦しそうな顔しながら微笑む土方のことを思い出して、夢主(妹)は胸が苦しくなった。