第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
ふぅ…とひとつため息をこぼした夢主(姉)ちゃんは、
「お布団だけでもかなり違うと思うので…。」
とだけ言って、僕が使ってた布団を抱えて出て行った。
ごほっ
ごほっ げほっ
布団を変える時に舞った埃のせいなのか、咳が再び止まらなくなって、新しくひかれた布団に転がる。
ふわり、と、僕の匂いじゃない甘い匂いがした。
もしかしたら夢主(姉)ちゃんの布団を持ってきたのかな?
屯所にはもう布団の予備なんてないし、それしか考えられない。
カビと埃臭かった僕の布団より、少しだけふかふかとお日様の匂いがする。
あーあ。
こんなんじゃ僕は丸め込めないからね?
「失礼しまーす」
蛙をお腹に乗せたまま寝転んで天井の節をぼーっと数えてると、再び返事をする前に襖が開けられた。
湯気を立てた湯飲みを持った夢主(姉)ちゃんが、寝転んだ僕の前に座る。
「どうぞ。」
差し出された湯飲みからは、生姜の匂いがした。
「いらない。」
蛙を懐に隠して、寝転んだままそう言えば、
「じゃあここに置いときますね」
なんだか気持ちが落ちつかない。僕が冷たくすれば、夢主(妹)ちゃんも千鶴ちゃんも怯んでくれるのに。
どうしたら夢主(姉)ちゃんは怖がるんだろう?
「ねえ。」
湯飲みを箪笥の上に置いている背後から声をかけた。
振り向いたところで、懐から蛙を出した。
ぴょん
と勢いよく飛び跳ねた先は、夢主(姉)ちゃんの首筋。
首筋の襟の縁にちょうど良く乗っかってる。
どうせまた、蛙かわいい、なんて言うんでしょ?
あーあ。つまらない。
「……?」
夢主(姉)ちゃんは首筋に蛙を乗せたまま、しばらく停止してる。
げろげろ
「え?」
「何?」
げろげろ
「あ」
まさか。
「おおおおおきたさん!!!」
「何?」
やばい。今日一番楽しいかも。本当はこの反応を夢主(妹)ちゃんと千鶴ちゃんで見たかったんだけど。
予想外に顔色を変えて固まってる夢主(姉)ちゃんの様子に笑うのを我慢して、あえて冷たくあしらう。
「く、くびに!!」
「首に?」
本当は笑いたいけど…
げろげろっ
蛙は小さく跳ねて夢主(姉)ちゃんの首を少しだけ登った。