第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
「ひゃああああああ!!!」
今度は夢主(姉)ちゃんが飛び跳ねて、僕の袖の裾をぎゅっと掴む。
「おおおきたさん!!とととととって!」
僕は騙されないよ?それは僕を丸め込む演技か何か?
「おきたさん!」
袖の裾をぎゅうぎゅうと引っ張る夢主(姉)ちゃんの目には涙が浮かんでる。
信じないし、丸め込まれてもいないよ?
「おきたさん…」
あの日…新撰組を静粛した後も、この前斬った浪士の死体を見ても、こんな顔しなかったくせに。
眉毛を寄せて涙を浮かべて…そんなかわいい顔したって僕は騙されない。
「取ってほしい?」
その言葉に、夢主(姉)ちゃんはこくこくこくとめいいっぱいうなずいた。
ひょい、と蛙を取って、もう解放してあげようと、襖を開けて軒下に放った。
ありがとね、蛙。
千鶴ちゃんみたいにちょっと話しかけたりして。
部屋に戻ると、首を抑えてまだ固まってる夢主(姉)ちゃんが居る。
こんなんで監察方なんて大丈夫なの?
「いつまでいる気?」
襖を閉めてから声をかけると、はっと我に返った夢主(姉)ちゃんは、
「あ、ごめんなさい。ぬめぬめが…」
まだ泣きそうな顔をしてる夢主(姉)ちゃんに、なんだか違う感情がこみ上げてくる。
「ねえ、山南さんの部屋にも出入りしてるみたいだったけど。」
少しずつ夢主(姉)ちゃんに近づく。
「男の部屋に入ったらどうなるか知ってる?」
首を抑えてる夢主(姉)ちゃんの手を掴んで、そのまま蛙が乗っかってた部分を、
ぺろり
と、舐めた。
「な?!」
驚いて目を丸くする夢主(姉)ちゃんだったけど、勝手に布団変えたりした上に、蛙なんかで涙目になってかわいいなんて思わせたお返しだよ。
「僕の咳は皆に内緒だよ?言ったら今度は蛙を背中に入れちゃおうかな?縛り付けてからでもいいね。」
「ドS…」
どえす?意味わかんない。
夢主(姉)ちゃんは、言わないけど医者には行ってくださいね!なんて言って出てったけど…
再び転がった布団から、さっき蛙がいた首筋を舐めた時と同じ甘い匂いがして、なんだか苛々が混ざった変な気持ちになった。
今度は蛇にしてみようかな?
あれだけじゃ物足りない。
いったい君は何なの?
近藤さんの邪魔になったら…どんなにかわいい顔したって容赦なく斬るからね。