第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
まずまずの反応にちょっと満足したのに、
「か、蛙さん…」
きゃあとか言ったくせに、手のひらに乗った蛙に"さん"なんかつけて、こんにちは、とか言ってる。
「雪村君は蛙が大丈夫なのか。」
その様子に、山崎君もなんだか拍子抜けしてるみたい。
「沖田さん、この蛙さんをくださるんですか?」
あいさつだけじゃくて、かわいいねー、なんて話かけながら、そう言う千鶴ちゃんに、
「やっぱりあげないよ。」
と取り上げて、また懐にしまった。
あーあ。
なんだかつまらない。
部屋の前の縁側に座って空を見上げる。
最近、咳が止まらないことがある。
たいしたことないはずなんだけど…少し苦しくなる度に、どうしようもないような感情がやってきて、なんだかやるせない。
懐の蛙に飲むために持ってきた水を少しかけてあげると、なんだかちょっと嬉しそうだ。
近所の子供達の所にでも遊びに行こうかな。
蛙を夢主(妹)ちゃんみたいにつんつんしながら遊んでると、僕の部屋のちょっと先にある山南さんの部屋から、夢主(姉)ちゃんが出てきた。
へぇ…
山南さんと夢主(姉)ちゃん…仲良くなったんだ。
部屋から出てこちらに歩いてくる夢主(姉)ちゃんを、少し目を細めて見る。
「沖田さんこんにちは。」
そんな僕に気がついて、夢主(姉)ちゃんはにっこり笑ってあいさつをしてきたけど、目線を軒に移して無視をした。
みんなうまく丸められちゃってるけど、僕はそんなに甘くないよ。
山南さんまで手篭めにされちゃった…なんて…って言ったら言い過ぎだけど、ありえなくはないでしょ?
膝の上の蛙がぴょんと小さく跳ねる。
どうせ蛙なんかに夢主(姉)ちゃんは驚かない。
死体を見ても、顔色ひとつ変えないんだよ?
みんな変だと思わないのが変だよ。
僕の芯は変わらないよ。
近藤さんの邪魔をする人は、女の子だって斬る。
無視をしている僕にそれ以上夢主(姉)ちゃんは話しかけて来ないで、そのまま通り過ぎた。