第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
今日も庭先で平助と夢主(妹)ちゃんが稽古をしてる。
その様子を他の隊士達が見てたりして、なんだかわいわいと楽しそう。
最近は屯所がにぎやかな気がする。
土方さんなんて毎日毎日でれでれしちゃってるし、平助も新八さんも夢主(妹)ちゃんと、暇さえあれば稽古してるし。
左之さんも、そんな平助と新八さんと一緒になんだか楽しそうだしね。
当番で作ってた食事も、千鶴ちゃんが率先して手伝ってくれてるから、御飯が美味しくてみんな元気になった。
炊事場を覗きに行ってみようかな。
そう思って歩き出せば、ゲコゲコって聞こえた。
足元には蛙が一匹。
その蛙をひょいと持ち上げて、懐に忍ばせる。
「あー!また!平助さっき一個食べたじゃん!」
「うるせー!お前より胃袋がでかいんだよ!」
毎日こんなやりとりして飽きないのかな?
言い合ってる二人に近づいて、懐に忍ばせた蛙を平助の頭にそーっと乗っけてみた。
「あ?え?総司?なんだ?」
頭に違和感を感じたらしい平助が、頭に手を持っていく。
ぴょーん
目の前にいた夢主(妹)ちゃんの鼻に、飛んだ蛙が激突した。
「痛っ!うぇ?蛙?」
ぶつかった鼻を押さえながら、蛙に目を落とす夢主(妹)ちゃんは、
「蛙だあ!かわいい!!」
と、目を輝かせると、しゃがみこんで蛙を指でつんつんしてる。
なぁんだ。驚かないのか。
期待通りの反応じゃなくてなんだか腑に落ちない。
指でつつきながら蛙と戯れてる夢主(妹)ちゃんと平助から、ひょいと蛙を取り上げて、また懐にしまった。
そうだ炊事場に行くんだった。
首をかしげてこっちを見てる二人を軽く無視して歩き出す。
千鶴ちゃんは炊事場ではなくて、井戸の前で何やら山崎君と話をしてる。
普段笑わない山崎君がなんだか嬉しそうに笑ってる。
みんなしてなんだか浮かれてるよね。
そんな場合じゃないのにさ。
千鶴ちゃんに背後から近づくと、山崎君の顔から笑みが消えた。
「山崎君、随分楽しそうだね?あ、千鶴ちゃんにいいものあげようと思って。」
と、懐の蛙を捕まえながら言う。
「なんですか?」
「手、出して?」
出された手のひらに蛙を置く。
「きゃあっ」
「な!沖田さん!」
千鶴ちゃんの声と、山崎君の声は同時だった。