第1章 季節はずれの桜の木
明らかに絡まれている雰囲気だ。
二人はほとんど本能で動いていた。
夢主(妹)は竹刀を握りしめた。
夢主(妹)の稽古相手は同級生、ましてや女子では勤まらず、大学生や社会人の男性と打ち合いをすることが多かった。その為、大の男を前にしてもひるまない度胸があるのだ。
「ちょっと!」
二人は少年と男たちの間に入った。
夢主(妹)は竹刀を手に中でも一番偉そうな態度のやつをにらみ付ける。
「ここはどこだ!!」
夢主(妹)が叫ぶ。
「はぁ?何だお前」
男はいきなり入ってきた邪魔者を訝しげに見下ろした。
「だーかーらー、ここはどこ?あ、ついでに何年?」
あきらかにタイミングが違う質問をする夢主(妹)に、男達どころか、囲まれていた少年までもが、首を傾げる。
「お前いったいなんなんだよ!・・・って女か?しかもべっぴんじゃねぇか。何だ俺たちを誘いに来たのか?」
男たちは卑しい笑い声を響かせた。
「残念だけど…誘いたくないわ。」
夢主(姉)が男達を見渡して呟く。
「おいこらなめてんのか!何だぁ?その竹刀は。たかが竹刀で俺らとやろうってのか。」
にやにやした男達が遊び半分で刀を抜こうと鞘に手をかける。
「だーれが真剣とやるかーい!!」
瞬間、夢主(妹)が竹刀を両手で握り、男の鳩尾を激しく突いた。
「うごぉ!」
男がにぶいうめき声をあげる。
「逃げようっ!」
少年の手を夢主(姉)がにぎり、走り出した。夢主(妹)もその後を追う。
「何すんだてめぇ!待ちやがれ!」
仲間をやられて激昂した男達が罵声を浴びせながら追いかけてくる。
「男だからってうちらに足で勝てると思うなよー!!」
面白くなってしまって、思わず言い返す夢主(妹)。
「あの!!」
先ほどから唖然とその光景を見ていた少年がやっと口をきいた。
「「とりあえず、逃げよう!!!」」
二人同時に叫ぶと、狭い路地裏へ入った。
彼らがまだ追いついてこないのを確認して、家と家の間に身をすべりこませる。
「あの…私…」
「「しぃーーーー!!!」」
少年がしゃべろうとするのを手振りで押さえ込む。
とにかく、男たちがこの近くを走り去るのを確認してからだ。