第1章 季節はずれの桜の木
「ん…」
-----気づくと、二人はまた違う場所にいた。
どこかの大通りのようだ。
しかし、何か違和感がある。
建物が低い???…木造…??
地面がコンクリートじゃない…さっきの桜は…??
…お姉ちゃんは???
朦朧とする意識の中、夢主(妹)がうっすら目をあける。
「夢主(妹)!大丈夫!?」
目の前に夢主(姉)の姿が映った。
「…お姉ちゃん…ここ…どこ…?」
夢主(姉)はほっとした顔で夢主(妹)を助け起こし、すぐに険しい表情になる。
「ぜんっぜんわからないの。でも…なーんか見覚えがあるようなないような。」
「あ、竹刀は無事だ!」
夢主(妹)はすぐ近くに放り出された道具を大事そうに抱えた。
「もう…こんな時まで竹刀の心配して…」
「いや、もうむしろこんな時だからこそ武器が大事かなってね」
「順応力高すぎ!他の荷物は…」
二人はあたりを見回すも、夢主(妹)が握りしめている竹刀以外は、何も無かった。
「とりあえず、歩こうか…」
二人は不安な面持ちで歩き出した。
どこまで歩いても知らない風景。しかも何だか古めかしい。
「…江戸村?」
夢主(妹)がつぶやく。
「ぽいよね?何か見たことあるし。」
確実に知らない。けれど知ってる気がする景色の連続に、 二人は狐につままれたような気分になっていた。
現実だけどどこか夢心地。
けれどさっきまでの激しい稽古の疲労感はしっかり残っている。
「ちょっとまって!」
夢主(妹)が立て札のようなものを見て悲鳴に近い声をあげた。
「…今って…何年?」
「は?」
「だから!今は何年?」
「2016年でしょ。」
「元号で!」
「平成…何年だっけ?なんか最近西暦しか使わないから忘れちゃうよね」
「残念でした。不正解です」
夢主(妹)が真剣な声色で冗談のような言葉を発した。
「正解は…じゃじゃーん。文久三年です」
「…は?!」
「だから…文久三年。1863年。」
立て札のようなもの…。それは制札といって明治時代初期まで使われていたいわゆる法令告知に使われた掲示板であった。