第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
「大丈夫だよ。そのまま何にもしなくていいから…」
そう言ってから、また唇を重ねれば、さっきより呼吸が落ちついてきたみたい。
「は…ふ…」
夢主(姉)ちゃんから息がもれる。
背後から抱きつくみたいなこの体勢が少し辛くなってきて、夢主(姉)ちゃんの背を腕に乗せて体ごと横を向かせた。
僕の胸辺りの着物をぎゅうぎゅうと掴みながら、僕から吐き出される息を受け止めてる夢主(姉)ちゃんに、当然のように、じわじわと欲望がそそり立つ。
さすがにこれ以上はまずいかな?って思って唇を離せば、夢主(姉)ちゃんの呼吸はほとんど整ってた。
虚ろげな視線と、苦しさで涙が溜まった目元…離したばかりで少し開いた唇に、身体中がどくん、と脈立つのがわかる。
そんな顔しちゃってさ…
これは口づけとかじゃなくて、ただの人命救助の行為なんだけど。
なんとか僕の中の欲望を納めようと、深呼吸をする。
「落ちついた?」
ぼーっとして、視点が合わない夢主(姉)ちゃんの顔を覗き込むようにして、そう聞けば、こくりと頷いた。
「ありがとう…。」
消え入りそうな声。
抱きかかえでた腕を解いて、密着していた体を離す。
夢主(姉)ちゃんは俯いてまま動かないけど、何を話せばいいかもわからないから放っておくことにした。
それにしても…
まだふた月くらいしか経ってないのに、すっかり女の子らしくなっちゃって。
もともと男装はおかしかったけど、なんていうか…漂ってる空気まで女の子。
山南さんが夢主(姉)ちゃんには死んでる事にしてって言った理由がわかったよ。
こんな夢主(姉)ちゃんを目の前にして、一度触れ合った事があったらさ…また触れたいって思っちゃうよね。
でも…こんなに悲しんでるけどいいの?山南さん。
涙を流すわけでもなく、僕の布団に座って俯いたままぼーっと一点を見つめている夢主(姉)ちゃんを見る。