第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
「…悲しい?」
ふと無意識に口からこぼれてしまった僕の言葉に、
「わかんない…」
と、小さな小さな声が返ってきた。
てっきり悲しいって返ってくるものだと思ってたから、なんだか調子が狂うけど…取り繕ってない夢主(姉)ちゃんの本音なんだろうなって思えば、なんだか貴重な気がする。
「…ほんとに本当なんですよね?」
小さな細い声で紡がれた質問に、僕は少しもためらう事なく嘘をつく。
「うん。本当だよ?山南さんはもう居ない。」
普通の人間としての山南さんはもう居ないから、あらかた嘘ではないよ。
なんて、目の前で消えちゃいそうに落ち込んでる夢主(姉)ちゃんに、心内に言い訳をしてみたり。
「そっかぁ…。」
「うん。」
いつもの調子で能天気な返事をした夢主(姉)ちゃんは、また一点を見つめたまま動かなくなった。
その哀しげで儚い横顔は、暗い部屋に照らされた灯篭に映えて…ゾクリと身震いするくらい綺麗に見えた。
「この部屋使ってていいよ。帰る時間になったら山崎君が迎えに来るだろうし、ゆっくりしてなよ。」
僕が居たら泣けないかな?っていう親切心と、好きな人が死んじゃって悲しんでる姿に少し欲情しちゃってる下衆な自分を引き離す為に…。
一君の部屋にでも行ってようかな?って、立ち上がろうとしたら、ぐいぐいと着物の袖を掴まれた。
ああもう…
そうだよね…
ここで一人にしてあげる優しさは…きっと僕じゃなくても出来るんだけど…夢主(姉)ちゃんっていう女の子は…本当はこういう時は…
俯いて座ったまま、僕の袖に手を伸ばす夢主(姉)ちゃんを、少し強く引き寄せて抱きしめる。
その行為に驚くわけでも抵抗するでもなく、そのまま僕に抱きしめられちゃってる細い肩に、どくりどくりと心臓が速くなった。
鼻先の髪の毛からふわりと香る、新選組の屯所に居た頃とは違う花街の香りが、速度を上げる心臓の触媒になってる。
「…あったかい」
不意な夢主(姉)ちゃんの呟きに、僕の中の何かの線が切れたみたいで…そのまま顎を持ち上げて乱暴に唇を奪った。