第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
それから程なくして、山南は回復し、あれ程までに苦しめていた腕も治っていた。
山南が無事だった事を喜ぶ一方、変若水の力によって普通の人間ではなくなった事は、伊東や変若水を知らない隊士には黙っておく事になり…山南は表向きには自害した事にすると話は進む。
「夢主(姉)にはどうする?遅かれ早かれ…花街にはすぐに話は広まるだろ。」
原田のその言葉に、
「明日にでも監察方に接触をさせる。…夢主(姉)は変若水を知らねえが…「何かしらの薬を山南さんが使う可能性がある」って所までは漕ぎ着けてるから、話は通じるだろうしな。」
と、土方が応えたが、
「それには及びません。」
山南がそれを反対した。
「彼女には…私は死んだと伝えてください。」
「なんでだよ?夢主(妹)には明かしてるんだし、事実を知らせた方がいいんじゃねえのか?」
山南から放たれた言葉に、原田が正直な疑問をぶつける。
「私が「新撰組」になった事を知れば、あらゆる筋から私が自害をしたとの噂を聞く夢主(姉)君には負担になりかねません。命を危険にさらす可能性もあります。それに…いえ…とにかく私は死んだと伝えてください。」
いつになく強めの口調の山南に、理屈は間違っていないが…と黙るしかなかった。
「ですが…それでは…死んだと聞かされた夢主(姉)君が…」
酷く悲しみます…と、普段は幹部の話に断りなく割って入らない山崎も、思わず口を出す。
山崎は…山南と夢主(姉)の、あの夜の出来事を気がついていないわけもなく…恋仲とまではいかなくとも深い関係である事には違いないと、死んだと聞かされた後の夢主(姉)の精神状態を案じていた。
確かにそうだ…と、誰しもが思い、しばらく沈黙が続いた。
沈黙を破ったのは、他でもない山南で…
「これは…提案ではなく…お願いです。夢主(姉)君には死んだ事にしてください。」