第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
夢主(妹)が勝手場を覗いて見るも、千鶴の姿は無かった。
どうしたんだろう?
はっ!?まさか…だ、誰か好きな人に会いに行ってるとか?
千鶴、好きな人っているのかな?
皆に優しいしなー…うーん…
夢主(妹)は探すのは野暮かな?などと考えながら、とりあえず部屋まで遠回りをして帰ることにした。
その時…
「だ、誰か…!」
千鶴の悲鳴まじりの声が聞こえた。
夢主(妹)は声が聞こえた方に走る。
到着した先には…
白く変色した髪をした山南が倒れていた。
その山南の側で血が滴り落ちる刀を持つ沖田と…へたり込んでいる千鶴。
山南の姿を見た瞬間に、夢主(妹)は此処に来たばかりの日に見た、化け物の姿がフラッシュバックする。
千鶴に駆け寄りたい思いとは裏腹に、ガタガタと足がすくんでその場から動けなくなった。
冷え切った瞳をした沖田が、ちらりと夢主(妹)を確認する。
「…変若水?」
倒れた山南を抱える沖田は、夢主(妹)の呟きにぴくりと反応した。
「へえ…夢主(妹)ちゃん知ってるんだ…」
よいしょ、と山南を抱えた沖田は、立ち尽くしている夢主(妹)を見ると同時に、涙を流してへたり込んでいる千鶴に、
「…大丈夫だよ。もう…このくらいじゃ死ねないから…。」
と、哀しげに言う。
それからばたばたと幹部達が集まって、事の経緯が説明された。
夢主(妹)はぼーっと考えを巡らせる。
小説や大河ドラマや舞台では…山南さんは逃亡して粛清されるんだよね…。
切腹になって…介錯は確か…沖田さんで…。
ああ…そうか…さっき沖田さんが山南さんを斬ってた。
私が知っていた事は…史実以外でもあんまり変わらないんだ…。
山南さん…死んじゃうのかな?
沖田さんは「死ねないから」って言ってた。
変若水は…怪我が治るんだよね?だから山南さんは飲んだんだよね?
でも…あの姿はあの日の化け物と同じだった…。
お姉ちゃん…止められなかったよ…。
夢主(妹)は話し合いが成されてる最中も、そんな事を考える。
そうして上の空だった夢主(妹)の耳に、探している千鶴の父親が変若水を新選組に持ち込んだと聞こえてきたが、深く考える余裕は無かった。