第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
静かに紡がれた願いに、一同は更に沈黙を重ねたが…やがて眉間に皺を寄せた土方によってそれは破られた。
「…まあ山南さんが危惧するのも一理あるしな。夢主(妹)、千鶴…お前らには少々酷な嘘をつかせる事になるが…夢主(姉)が事実を知ってもどうこうする奴じゃねえってのはわかってるから安心しろ。」
夢主(姉)は山南の死を悲しむだろう。
それを事実とは違うのに、見届けなければならねえこいつらにも負担をかけちまう。
そんな土方の心を読み取った夢主(妹)は、
「大丈夫です。新選組の方針に従います。」
と、はっきりと強く応えた。
「わ、私も…。夢主(姉)ちゃんが危険から遠ざかるなら…」
そう千鶴も続き、夢主(姉)への対処は決定をする。
夢主(姉)君…
あれは稽古帰りだったのでしょうか…
貴女は一段と綺麗になりましたね…。
山南は決定事項に安堵する反面、もう二度と顔を合わせられない夢主(姉)の…夕方、見たばかりの笑顔を思い浮かべる。
貴女に会ったら、私は触れたいと思ってしまう。
もしも私が昨夜のように意識を変若水の副作用に持っていかれたら?
貴女を切り刻んでしまうかもしれません。
そんな事は絶対にしたくない…。
夢主(姉)が事実を知った所で、それを外部に漏らすなどはしない事も、悟られないように出来る事も…山南は分かっていた。
皆を諭した表向きの理由は、たんなるこじつけで…自分自身が夢主(姉)にとって一番危険だと…山南は考えたのだ。
それが例え夢主(姉)を悲しませ、涙を流させる事になっても、譲るわけにはいかなかった。
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過呼吸状態の夢主(姉)を担いだ沖田は自室に着くと、そっと降ろした。
「苦しい?」
うまく息ができないままうずくまる夢主(姉)の背中を撫で、そのまま自分の腕の中に納めるように、夢主(姉)を自分の胸に寄りかからせる。
「…ごめんね。これが一番の方法だから…」
そう言った沖田は、夢主(姉)の鼻をつまみ…少し開いた夢主(姉)の唇に、自分の唇を合わせた。