第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
三日前のその日、夕餉後の仕事を終えて夢主(妹)が部屋に戻ると、もう寝ていてもいいほどに夜は更けているというのに、千鶴が部屋に居なかった。
どうしたんだろう?沖田さんに薬あげに行ったのかな? でも遅い時間だし…
と、夢主(妹)は少し心配になった。
夕餉の片付けがまだ終わってないのかな?それなら手伝いに行こうかな…
姉がこの部屋に戻らなくても、全く心配をした事はなかったけれど、千鶴が居ないのはなんだか心配だった。
勝手場に向かう事にして部屋を出れば、綺麗なはずの月明かりが何故か不気味に思える。
…千鶴大丈夫かな?
ざわざわと胸騒ぎがするようで、自然と歩く速度を上げた。
それにしても今日は…山南さんがかなり尖ってたなー…
まあ…西本願寺を屯所にしちゃおうって考えもぶっ飛んでるけど、利があるし…
なんて、昼間の出来事をぶつぶつと思い出しながら歩く。
午前中の会議で、屯所の移動についての意見交換があった。
大所帯となった新選組は、もはや此処は狭すぎる。
西本願寺を屯所に…という意見に、山南は真っ向から反対をした。
それに対して、嫌味を含んだ物言いをした伊東に、土方が怒りを露わにしたのだが…事態は良い方向には進まず、山南の表情は暗かった。
山南が暗いのははもう一同にとっては通常の事になってしまっていて、どう好転させればいいのか誰にも分からない。
だから…誰も気がつかなかった。
山南が…限界まで心を蝕まれている事に。