第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
「なあ…ほんとにこれでいいのか?」
沖田が夢主(姉)を抱えて出て行った後、土方の部屋はしばらく沈黙が続いたがそんな藤堂の言葉がそれを破った。
「伊東さんらに黙ってるのは簡単なんだけどな…夢主(姉)が相手だと…なんつーか罪悪感が半端無ねえ。夢主(妹)は姉貴に秘密作っちまった事になって辛いよな…」
そう言いながら、原田はふぅ…と腕を伸ばす。
「私は大丈夫です。ただ…姉はあんなかんじなんで、わざわざ秘密にしなくったって大丈夫な気もします。」
夢主(妹)は言い終えてから、ちらりと土方を見て、こう続けた。
「ものの二、三日で、姉が居る場所まで噂が回るんですね…。」
もしこれで本当の事が、お姉ちゃんの耳に入ったら…お姉ちゃんはどう思うんだろう?
お姉ちゃんのことだから、あからさまな動揺もしなさそうだけど…離れてるからこそ、新選組との関係が疑心暗鬼になる様な事には絶対になっちゃだめって思う。
夢主(妹)は自分の中にある引っかかる部分をどうにかうまく説明出来るように、考えを巡らせる。
「なんだかなあ…。夢主(姉)なら俺も大丈夫だと思うんだけどな。」
藤堂はやっぱり納得できないとばかりに、胡座をかいたひざに頬杖をついた。
「いいのですよ。これで。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
すーっと襖が開き、穏やかな声と共に入ってきたのは、少し青白い顔をした山南だった。
先程、伊東の足音が近づいていると山崎から聞いていた一同は、鉢合わせてしまうのでは無いかと狼狽える。
だが、山崎のその発言は、夢主(姉)を部屋から出す為の方便だ。
「申し訳ありません。伊東参謀の足音は自分の勘違いだったようです。」
山崎はそう言うと、では戻ります、と部屋から退散した。
そう…山南は生きている。
事件が起こったのは、三日前の晩だった。