第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
「伊東参謀かと思われる足音が近づいています。」
夢主(姉)が宙に浮いたのと同時に、山崎が告げる。
「じゃあ夢主(姉)ちゃんは僕が連れて行くよ。」
夢主(姉)を皆からはその顔が見えないように、肩にひょいと担いだ沖田は、襖を開けようと手をかけた。
「おい!総司!」
土方の怒鳴るような声に、
「伊東さんと鉢合わせちゃまずいでしょ?…それに、久しぶりに夢主(姉)ちゃんが来たんだから、ゆっくり話もしたいし。…あ、山崎君、帰るまでどれくらい?」
「…二刻ほどは大丈夫かと。」
「じゃあ、適当にお迎えに来てよ。…あ、夢主(妹)ちゃんちょっと…」
手をひらひらとさせて夢主(妹)を呼ぶと、土方は溜息をついて、夢主(妹)に行ってやれと指示を出す。
近づいた夢主(妹)に、沖田は誰にも聞こえないように耳打ちをした。
「真剣に答えてね?…僕の「風邪」は、夢主(姉)ちゃんにうつると思う?」
瞬間、夢主(妹)は固まる。
…沖田さんは自分の病を知ってる?そしてそれを私が知ってる事も?それともただの風邪だと?
沖田の思惑がわからず、何も言えずに固まる夢主(妹)に、
「意地悪な質問をしてごめんね。でもお願い…答えて?」
沖田のいつになく真剣な表情と声に、夢主(妹)は意を決して答えた。
お姉ちゃんも私もBCGを受けてる…だから結核にはかかりにくいはず…。
「…此処にいる人達よりはうつりにくいかと。」
夢主(妹)の答えに沖田はにっこりと笑うと、ありがとうごめんね、と小さく告げて、部屋を出て行った。
一方担がれている夢主(姉)は過呼吸状態にあり、苦しくて仕方ない。
「夢主(姉)ちゃんもう少し頑張ってね…」
担いだ夢主(姉)の背中をさすりながら、沖田は自室を目指した。