第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
「山南さんが自刃…もしくは粛正された…と。」
夢主(姉)が放ったその一言に、部屋中の空気が張り詰めた。
「二日ほど前の晩、薩摩の方言がちらつくお客さんがしきりに話をしてました。言っていることはさまざまだったんですが、ぽっと出たわけではないようなので、噂の出所は新選組かなぁと。…私が呼ばれたのは、そんな嘘を流した理由ですか?」
夢主(姉)自身は、張り詰めた空気の意味を理解していたと思う。
だが、認めたくなかった。
認めたくないばかりに、いつも通りの能天気な物言いで、そう土方へ問う。
「…じゃねえよ。」
「え?」
「嘘じゃねえ。山南さんは自刃した。自刃とはいえ…組からの逃亡は粛正にあたる。どちらの噂も嘘じゃねえ。」
土方の声はいつもより一段と低く、張り詰めた部屋に響くようだった。
「…え?」
夢主(姉)はまるで心臓を一突きされたようだった。
この部屋に入った時から、その空気で分かっていたようなはずなのに…現実が受け入れられず、身体と頭が動かない。
「山南さんはもうこの世にはいねえ。」
目の前で固まる夢主(姉)に、土方はあえて容赦はしなかった。
何か言葉を発せなくては…動揺してはいけない、私は諜報活動専門なんだから…と、真っ白になりかけた夢主(姉)の脳内は、ぐるぐるとそんな事を考える。
「…ご…ご遺体は?」
何か言葉をと、やっと出た言葉は夢主(姉)が山南に会いたいと願うようなものだったが、
「もうねえよ。」
土方はばっさりと斬るように言った。
夢主(姉)は俯いたまましばらく動かない。
周りも、目の前にいる土方含め、衝撃がありすぎたから致し方ないと見守っていたが、そんな夢主(姉)の異変に気付いたのは、山崎ともう一人。
泣いてはダメダメ…。
この後に及んでそんな事ばかり考えてる夢主(姉)は、悲しむことも、軽く受け流すことも出来ない。
息がうまく出来ない…
そう感じた直後、ふわりと身体が宙に浮いた。