第10章 1865年 元治二年
「お前は何故だと思ってる?」
真剣な表情で背筋を伸ばして座る夢主(妹)の前に、どかりと俺も腰を落とす。
そして、真っ直ぐな深い瞳をじっと見つめた。
「利点があるからですよね?例えば…無敵になれる、だとか。山南さん…ということから考えたら…怪我が治るとかそういう類の。」
普段なら、俺が瞳を合わせれば赤くなって慌てる夢主(妹)も、今は真剣で…俺が射抜かれる程にじっと瞳を合わせ続ける。
「そしてなんでそんな摩訶不思議な薬がここにあるかは…」
そう言い終えた夢主(妹)は、手元の袴をがっしり握りしめて、再び覚悟を決めたような面になった。
「それは…すみません…憶測ですが…」
「いいぜ、話せ。」
「断れない誰か…例えば…幕府から人体実験を命じられてるのでは?」
ったく…やっぱりあの日に斬るべきだったか…
こいつは危険な程に頭が回る…
「す、すみません。幼稚な推理を…」
目をぎゅっと音が聞こえてきそうなくれえ固く閉じてる夢主(妹)の頭をぽん、と撫でる。
「御名答。…だが人体実験か…だよな…外から見ればそうだよな…」
幕府からは…副作用で狂っちまう事なんざ聞かされてなかった。
綱道さんが薄めてくれてから…大丈夫なはずだった…だが…
「粛正する隊士に、薬を飲むか切腹するかを選ばせてる。…まあ大抵の隊士が生きる為に薬を飲んでるよ。」
情けねえ…こんな話をして、息を詰めた夢主(妹)の顔を見れねえなんて。
「兵力増強…の為に…なんて夢物語だったけどな。」
近藤さんだって薬を飲ませるのなんざ認めてねえよ。
ただ…あの頃の俺達は幕府からの達示を受けねえわけにいかなかった。
「…山南さんが狂っちまわないように研究をしてる。そうなりゃ…期待もしちまうさ。」
山南さんの腕が治れば…。
夢主(妹)は真剣に聞いてるが、なんだか涙が目尻に溜まってる。
「……」
「幻滅したか?新選組に…俺にもな…」
目の前にしゃがみ込んで、夢主(妹)の頭に片手を乗せて、顔を覗き込む。
「そんなことっ…」
俺はずるい。
ああ…そうだった。
俺は新選組の為にだったらなんだってやる。
夢主(妹)の言葉を全部聞き終える前に、その唇を自分の唇で塞いだ。