第10章 1865年 元治二年
使いから帰って来て以来夢主(妹)の様子がおかしくて、部屋に戻るなり問いただす。
総司と何か話してたみてえだが…ありゃきっと関係ねえ。
大方、こいつの異変に気付いた総司が、なんだかんだ元気出そうとしてやがったんだろうがな。
さて…何やら考え込んでるこいつは貝みてえに固いからな…開くまで待つしかねえんだが。
と、長期戦を覚悟してたのも束の間、一通の手紙を差し出された。
「お姉ちゃんからです。」
開いてみるが…
「読めねえ…」
夢主(姉)の手紙は何を書いてるかさっぱりだ。
仕方なく夢主(妹)に読んでもらうしかない。
内容は…
夢主(妹)はいつもの通り…袴をがっしり握って下を向いてやがる。
やっぱりな…夢主(姉)の事だ…これくらいは掴んでるとは思ってたが…問題はこいつか。
何やら考え込んでる夢主(妹)に視線を向ける。
「夢主(妹)…これ読んで何を考えた?」
こいつのことだ…容易に初日の新撰組にたどりついちまってるんだろう。
隠し通せるなんざ思ってなかった。
ただ…早く綱道さんを見つけて、進むか捨てるか決めちまいたかった。
まあ…こうなっちゃ仕方ねえがな。
「夢主(妹)、顔上げろ。夢主(姉)がこの事を掴むのも、それを知ればお前が何と結びつけるかなんざ、想定内だ。いいから…その頭ん中話せ。」
半ば呆れ気味にそう言えば、居住まいを正して覚悟を決めたような顔をしてやがる。
今更…斬らねえさ。
「その薬を飲めば、白髪に赤い目となり化け…化け物のようになり、彼らを「しんせんぐみ」と、この新選組とは別の括りで呼んでいる…と。彼らがあの日のように理性を失った際は「失敗」とし、粛正する…。で、お姉ちゃんからの手紙では山南さんがその薬を…」
ああ本当に…こいつは賢い。
「で、お前が今疑問に思ってるのは…」
そう…夢主(妹)の頭ん中には、そんな薬ありえねえだとか、そんな薬存在するのか…だとか、そんな在り来たりな疑問は浮かんでねえよな。
疑問に思ってるのはそれよりも…
「何故そんな薬を飲みたがるのか…です。」
思った通りの答えに、俺は満足して口角をあげる。