第10章 1865年 元治二年
「あ!沖田さん!土方さんに会いませんでした?」
パタパタと小さな子みたいな足音を立てて、夢主(妹)ちゃんが走ってきた。
「届け物から帰って来たら居なくて…」
あれ?少し元気ないかな?
「見てないよ。今頃本物の鬼にでも変幻してるんじゃない?姿を見られないようにこっそりさ。変幻の時間が終わったらきっと戻ってくるよ。」
そんな口から出まかせを言えば、
「あははは。じゃあ今頃どこかで誰かに見られないかハラハラしてたりするかも…」
なんて、乗って来た。
二人で「妖怪眉間に皺男」だとか、「土方鬼伝説」だとか、おかしな作り話をして、しばらく笑って話した。
「っはー!笑いすぎた〜!聞かれたら怒られちゃいますね。」
腹筋が〜なんて笑いながら、僕の隣に座る夢主(妹)ちゃんは、さっきよりは元気そう。
「夢主(姉)ちゃん元気かな?」
夢主(妹)ちゃんが浮かない顔をしてるのは、夢主(姉)ちゃんが居ないからかな?なんて思ってそう言ったんだけど…
「まあ…お姉ちゃんは元気でしょうね。あの楽天さが私にもあったらな…」
なんて言い出すものだから、どうやら違うみたい。
「楽天さ、かあ。確かに夢主(姉)ちゃんは能天気だよね。びっくりするくらい。」
「ほんとに!さっきも書置きしてあった手紙を読んで…怒りを覚えました。」
それから、夢主(妹)ちゃんからどんどん出てくる夢主(姉)ちゃんの過去の楽天家で能天気すぎる話に耳を傾ける。
元気が出たみたいで良かったなーなんて思ったけど…あ、でも心細いのかな…沈黙すると、やっぱり元気がなかった。
「夢主(妹)ちゃんてさ、凄いよね。」
これが夢主(姉)ちゃんだったら、多分僕は抱きしめたりしちゃってるかなって思うけど、夢主(妹)ちゃんを抱きしめるのはなんだか違う気がして、言葉を紡ぐ。