第10章 1865年 元治二年
ゴホ
最近…寒いからか咳がまた出はじめた。
ちょっと良くなったと思ったけど、あれは勘違いだったみたい。
ああ…僕はこのまま死ぬのかな?
こんなにも空が遠くて…青くて…冷たい空気だとさ…
そんな気分になってくる。
屯所内は落ちつかなくなった。
近藤さんはなんだってあんな…女の子みたいな話方してる人を連れてきたんだろう。
僕にとっては、佐幕だろうが尊皇だろうが攘夷だろうが関係ない。
近藤さんが進む道を切り拓いてついていく…それだけ。
自室を出てすぐの縁側に座って、そんなことを頭の中で巡らせながら、空を見上げる。
ああ…空が高い。
ふと、角にある山南さんの部屋に目が行った。
最近はいつも表情が暗い。
山南さんは僕にとって、兄のような存在だった。
近藤さんの道場で天然理心流に励んでいた頃に、北辰一刀流の稽古を僕につけてくれたのも山南さんで。
まだ子供だった僕に負けても笑顔で、
「沖田君にはかないませんね。君が成長していくのは、私も楽しみです。」
そんなことを言ってくれた。
優しい山南さんは、刀を持つと穏やかな表情になんとも言えない殺気が加わって、それが凄く格好良かった。
怪我をした今は…刀なんか持たなくても、いろんな知識持ってるんだし…自信持てばいいのにさ…なんて…言えないよね。
僕が山南さんだったら、きっとやりきれなくて死にたくなるかもしれないし。
薬に手を出すかもしれない。
…薬を飲んだら、「失敗」しちゃうのかな?
それじゃきっと、飲む意味もないよね。
でももし「失敗」しなかったら?
ゴホッゴホッ
僕も生きていられるのかな?
…あの日。
夢主(姉)ちゃんは山南さんの部屋に行ったよね。
真夜中にさ。
なんだか眠れなくて起きてたから知ってるんだ。
あの時期の山南さんも暗かったけど…今はもっと深刻そうだよね。
夢主(姉)ちゃんが此処に居たら違ったのかな?
…違わないか。
逆にどんどん追い詰められてく感覚になる…かな。
夢主(姉)ちゃんの前で格好悪くなりたくないもの。
だから…僕にとっても居なくて良かった。
山南さん…どうか「失敗」しないで…。