第10章 1865年 元治二年
「あの土方さんが夢主(妹)ちゃんにはでれでれしてるし。体格が違う隊士にも負けない腕持ってるし。小難しい本とか読んでるし…。こんな屯所でもなんだか楽しそうだしさ。」
さっきまで笑い転げてた夢主(妹)ちゃんは、やっぱり元気が無い様子で僕の話を聞いてる。
「そんな女の子、きっと夢主(妹)ちゃんくらいしか居ないよね。」
言いながら空を見上げれば、やっぱり青くて遠い。
「夢主(妹)ちゃんは能天気になったらだめだよきっと。あははは。もう考えすぎてるね。」
空から隣に座る夢主(妹)ちゃんに視線を移せば、袴をぎゅーっと掴みながらうつむいてる姿が見えた。
「だってさ…夢主(姉)ちゃんみたいだったら土方さんが今頃怒り狂って大変だよ。あの人意外と真面目だからさ。真剣に話聞いてあげないと怒るから。僕と夢主(姉)ちゃんの怒鳴られ方知らない?」
さっきまで笑いを取ってた、「妖怪眉間に皺男」をやって見せる。
「沖田さんって…お姉ちゃんみたい…」
夢主(妹)ちゃんから出た意外な言葉に、
「えー…夢主(姉)ちゃんと一緒にされたくないなぁ」
なんて悪態をついたけど、なんだか嬉しかった。
「じゃあさ、お兄ちゃんって呼んでもいいよ。」
そんな提案までしてみる。
「えー!じゃ、じゃあ…おにい」
「おい」
夢主(妹)ちゃんが言いかけた所で、土方さんの不機嫌な声が聞こえた。
「あ…ひ、土方さん!」
慌ててる夢主(妹)ちゃんを横目に、
「邪魔しないでくださいよ。今、僕がお兄ちゃんになる所なんですから。」
眉間に皺がより深く寄り始める土方さんに、慌てる夢主(妹)ちゃん…僕は久しぶりに楽しくて仕方ない。
「えっと!土方さんを探してて…」
「で?部屋にいりゃあ良かっただろうが」
「ですよね…すみません。」
ちょっとちょっと、二人で進めないでよね。
「ちょっと妖怪の話をしてただけですよ。目くじら立てないでくださいよ。」
妖怪だあ?と、睨む土方さんに、
「ほら、今此処にいるじゃないですか。妖怪眉間に皺男。」
自分の口元を片手で覆って、怖がるふりをする。
「総司てめえ…んなこと言ってねえで、早くその風邪治しやがれ!」
軽快な怒鳴り声に、はいはい、と軽く返事をして、立ち上がる。