第9章 1864年【後期】 門出の時
しんみりするのがなんだか嫌で、みんなにいつも通り接してしまった。
すーすー…と聞こえる二人の寝息に耳を傾ける。
時折、ふしゅー…と何かがしぼんだような息を吐く夢主(妹)に笑ってしまったり。
なかなか眠れない。
そういえば山南さんのお部屋に行きそびれちゃったな…今日が最後だったのに。
朝餉の時にちらっと会っただけで、会話はしてない。
お礼も言いたかったなあ…さすがにもう遅いよね…
そんなことを考え始めたら、どんどん目が覚めてしまって、頭の中は山南さんに会いたいなあ…っていうことばかりでいっぱいになってしまった。
今日で最後だし…行ってみようかな。
それはそれは軽い勢いで山南さんの部屋に向かった。
部屋を出れば、すごく冷たい空気に体が震える。
二度と来ることはないと思ってた忍者部オンリーの天井裏から、山南さんの部屋の近くまで。
どこからともなく聞こえる、隊士さん達のいびきは、今が夜中だと教えてくれた。
もう寝てるよね…寝顔を覗いて帰るのもいいかも。
そんなことを思いついて楽しくなって来る。
いざ部屋の前に着けば…今更こんな時間に来てしまった事にすこし怯んだ。
やっ…ぱり帰ろうかな…と、踵をかえそうとした時、
「夢主(姉)君ですね?こんな夜更けに何の用ですか?」
と、寒さで冷たくなった手足が更に凍りつきそうなくらい…冷めた声が聞こえる。
何の用も無くて返事に困っていれば、すーっと襖が開いて、いつもの冷たい表情をした山南さんがいた。
「あの…えーっと…眠れなくて…」
「ほう…それはそれは…こんな夜更けにそんな格好で来る理由としては、いささか安易だと思いますが…」
背筋がゾクゾクとするような冷めた視線で私を見下ろす山南さんの瞳を、負けじと見つめ返して、
「山南さんのお部屋に遊びに来れるのも今日が最後だし…」
と、夜更けにこんな…夜着で訪れた理由にならないような理由を言う。
山南さんは小さく溜息をつくと、
「…話があるのなら聞きましょう。ただし、長居は無用ですよ。」
と、釘をさされつつもなんとかお部屋に入ることが出来た。