第9章 1864年【後期】 門出の時
今まで沢山沢山お世話になった監察方へご挨拶をしに行って、山崎さんと今後の打ち合わせをした。
明日は途中まで山崎さんと一緒だし、しばらく会えないっていう実感がわかない。
「では、また明日〜」
なんていつも通りの挨拶をして部屋を出たけど…襖を閉めたら急になんだか寂しさが押し寄せてきた。
多分もう通ることのない、屋根裏を通って部屋に戻る。
忍者部みたいってわくわくした時もあれば、大きな鼠と目が合って心が折れた日もあった。
すとん、と屋根裏から飛び降りるのも、随分と忍者らしくなった自信がある。
部屋に戻ると、夜着に着替えた夢主(妹)と千鶴ちゃんが待ち構えていてくれて、三人でしばらく話をした。
「おやすみなさい」
ってちゃんと言えるのも今日が最後だから言わせてよ、なんて…眠らない!と言い張ってる二人に言えば、しんみりしつつも納得してくれた。
朝から晩までこの二人も働き通しているから、眠らないと意気込んでいたはずなのに、ものの数分で二つ分の寝息が聞こえて来る。
二人の寝顔を覗き見れば、やっぱり寂しくて仕方なくなった。
布団に寝転んでも、眠れる予感がしない。
今日は、多分…自惚れかもしれないけど…皆さん私の為に時間を使ってくれた。
「俺達はお前の兄貴だ。辛くなったら兄ちゃんの所に帰ってこいよ。」
なんて言ってくれた原田さん。
「夢主(姉)ちゃんの芸妓姿はきっと天下一品だぜ。島原のお姉ちゃん達が大好きな俺が保証する!」
と、白い歯を見せて笑ってくれた永倉さん。
「ま、夢主(妹)はちょっとやそっとじゃへこたれねえし、そこは心配必要ないんじゃねえ?」
って、私の心配を見越して言ってくれた平助君。
「急遽用意したものだから、気にいるかわからないが…」
と、紅や化粧筆をくださった近藤さん。
思いがけず…抱きしめてくれた斎藤さん。
「餞別だ」とくれた櫛は、とっても素敵なものだった。
いつもより雰囲気が柔らかかった沖田さんとは、もっと前から仲良くなれた予感がした。
みんな私に時間を使ってくれた。
もう一人妹が出来たみたいな千鶴ちゃん。
毎日私の為におにぎりを作ってくれてた。
目立たない所でがんばりやさんなんだよね。
今日夢主(妹)は何度涙を堪えていたんだろう。